2021年02月12日 1661号

【新型コロナ関連法に罰則規定/感染防止できず強権ふるう菅政権】

警察官僚政権の悪知恵

 新型インフルエンザ等特別措置法(特措法)や感染症法など新型コロナ感染症の関連法に罰則が付加された。当初の「改正」案にあった感染症法への刑事罰(懲役、罰金)は行政罰(過料)に、特措法案の過料額(50万円、30万円)は引き下げられたが、「時短営業拒否」(特措法)や「調査や入院拒否」(感染症法)などを罰則対象としたこと自体が問題なのだ。

 罰則で感染拡大は収まるのか。菅政権は「実効性を高める」ためだとその正当性を繰り返し主張してきたが、感染拡大の原因が時短営業や入院の拒否にあった事実はない。「守らない者がいるから、感染が拡大した」かのような誤ったイメージを吹聴したのだ。自らの無策ぶりをごまかそうとした警察官僚内閣が考えそうなことだ。

 「入院拒否」の実態はどうか。新型コロナで、いったい何件の事例があったのか。政府から示されたのは、「入院中に温泉に行った」という埼玉県での1件だけだった。逆に明らかになったのは、入院できずに自宅待機となる事例だ。全国で1万人を超える人が放置され、入院を待ちながら症状が急変し死亡に至る事例が12月以降21件にのぼっている(1/24毎日)。こんな状況の中で「入院拒否をさせないための罰則」に何の意味があるのか。


悲鳴あげる保健所

 感染拡大を抑えられない大きな原因の一つは、感染経路がたどれないことにある。積極的疫学調査が行えないほど感染者が増えているからだ。調査にあたる保健所が組織や人員の削減にあって機能マヒをおこしている。神奈川県は全件調査をあきらめ「調査対象を絞る」と公言した(1/8)。

 感染が発覚しても、これでは感染源を見つけることも次の感染を防ぐこともできない。こんな状態で、「疫学調査を拒否したら罰則」というのだ。悪い冗談としか言いようがない。

 重大なのは「罰則」により正確な調査ができなくなる恐れがあることだ。厚生労働省が法案提出に先立って意見を聞いた厚生科学審議会の感染症部会(1/15)で、歓楽街ワーキンググループの座長であった今村顕史委員(都立駒込<こまごめ>病院感染症科部長)は感染源と名指しされた「夜の街」での調査が保健所職員と店主との信頼関係をもとに実現できたことをあげ、罰則は逆効果になるとの趣旨の意見を述べている。

 厚労大臣の諮問機関である同部会で罰則を積極的に支持する発言は数名に限られた。むしろ「今集中すべき感染経路対策にほぼつながらない」(山田章東大名誉教授)と異を唱える意見が大半だった。

 罰則付与に特に強い危機感を表明しているのが、実際にその手続きをおこなうことになる保健所だ。白井千香委員(大阪・枚方<ひらかた>市保健所長)は政府が根拠の一つにあげる「全国知事会からの要請」について、保健所から知事に要望を出したことはないと指摘。現場からの要請ではないことを強調した。全国保健所長会は「慎重にすべき」(1/27)との文書を厚労省に送っている。日本看護系学会協議会(1/25)や日本公衆衛生看護学会(1/26)、日本保健師活動研究会(1/26)などが相次いで反対の声明を出した。

 感染対策の第一線に立つ保健所・保健師や看護師の悲鳴が聞こえる。

 菅は「給付金と罰則をセットで実効性をあげる」と言ってきた。補償に関する規定はどうなったのか。「事業者に対する支援等」(特措法第63条の2)を新設。「事業者の経営及び国民生活に及ぼす影響を緩和」するために「必要な措置を効果的に講ずるものとする」とした。「緩和」の程度、「効果的」の判断は政府の裁量でしかない。「給付金」の増額はない。「緊急事態措置」や「まん延防止重点措置」によって与える損失を補償する気はまるでない。

人権守る法に作り変えろ

 感染を広げようとする悪意ある感染者が出た場合どうするのかと問う声がある。調査拒否には公務執行妨害罪で、感染拡大行為には威力業務妨害、傷害の容疑で対応できると現場の保健所は主張している。

 結局、今回の「改正」はいったい何を罰するのか。患者の保護や感染拡大防止という法の趣旨とは無関係に、ただ政府が発した命令に従わないことへのペナルティーなのだ。いわば国家反逆罪と同じということだ。

 感染症の対策は、国際人権規約の「恐怖と欠乏からの自由」に立脚し、「疾病の恐怖」や「事業破綻、生活破綻」からの自由を保障する法に根本から作り変えるべきだ。
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