2021年02月12日 1661号

【JR日高本線の廃線が決定/民主主義回復させ公的責任で公共交通維持を】

 JR北海道が全路線距離の約半分にあたる10路線13線区を維持困難と公表(2016年11月)から丸4年を迎える昨年10月、JRが「バス転換が相当」とした5線区の中では圧倒的な長距離区間・日高本線鵡川(むかわ)〜様似(さまに)間(116・0km)の廃線が決まった。同線は、2015年1月の高波災害で不通となり、復旧されないままの廃線となる。「本線」の名称を持つ路線の廃止は、国鉄末期の名寄(なよろ)本線に次ぎ2例目。2001年の規制緩和で鉄道路線の廃止が認可から届出制に移行後、道内で100kmを超える区間の廃止は初だ。

 廃止となる区間は、九州でいえば博多(福岡市)〜長崎駅間の距離にほぼ匹敵する。これだけの距離を持つ区間を「各停の路線バスで行け」というのはまともな交通政策ではない。


調印拒否の町長も

 10月23日、沿線7町(日高、平取〈びらとり〉、新冠〈にいかっぷ〉、新ひだか、浦河、様似、えりも)の7町とJR北海道との間で廃止、バス転換の「調印式」が行われた。7町が参加する日高町村会で、通常議題ではあり得ない「多数決」によって廃止への同意が行われた際、反対を貫いた池田拓(ひらく)・浦河町長は副町長に代理出席させ、調印式を欠席した。「東京公務出張」が表向きの理由だが、池田町長は「故意に予定を重複させた」とみずから語る。廃線を受け入れない意思を明確にするための抗議欠席だ。

 沿線では、「JR日高線を守る会」「JR問題を考える苫小牧〈とまこまい〉の会」「安全問題研究会」による災害復旧を目指す闘いが5年半にわたって続いた。災害で不通となった鉄道路線の復旧運動がこれほど長期間続いたのは過去に例がない。住民の間でわき上がった粘り強い存続運動は、浦河町が最後まで反対を貫くという成果も生んだ。

反新自由主義の声明

 JR日高線を守る会は廃線決定に当たり最終声明を発表した。すべてが密室決定され、事後報告の住民説明会しか開かれなかったことに抗議。「鉄道は、国家が責任をもって維持すべき公共財であり社会的共通資本」として「これまでのような新自由主義的なやり方では限界」と指摘した。

 安全問題研究会が発表した声明でも「新自由主義的な法制度を放置するならば21世紀は鉄道滅亡の100年となる」と警告する。止まらない鉄道廃止の根本原因に新自由主義があるという点で沿線住民が一致している。「不採算路線や被災したローカル線を簡単に廃止とするのではなく、日本の鉄道網の維持と鉄道の災害復旧のための枠組作り等に本気で取り組」むよう「守る会」は国に注文をつけている。

再国有化案を公表

 一方、新自由主義的な法制度を放置したままではもはやローカル線は守れないとして、制度の見直しを求める動きも出てきた。安全問題研究会は1月4日、JR7社を全国1社の公的経営体に戻すため「日本鉄道公団法案」を公表した。国鉄分割民営化から33年、JR再国有化のための法案公表は初とみられる。地脇聖孝代表は「一度決められた法律や制度でも永遠のものはない。既存の法制度が市民にとってあまりに不利なときは見直すこと、官僚や政治家が市民の立場で立法活動をしないなら、市民みずから法案を作り示していくことも必要」と法案公表の目的を語る。

 日本では「ローカル線はなくなっても仕方ない」というムードが長く支配的だったが、最近は変わりつつある。神戸市郊外を走るローカル私鉄、北神急行電鉄は神戸市交通局に編入され公有化された。2003年に一部区間が廃止されたJR可部線(広島県)では廃止区間がごく一部だが復活。ひたちなか海浜鉄道(茨城県)は2024年の延伸が決まった。1人当たり二酸化炭素排出量の少ない鉄道は、環境対策の面から再評価されている。コロナ禍の今だからこそ、国や自治体の責任で公共交通を維持していくことが必要だ。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS