2021年02月12日 1661号

【非国民がやってきた!(348)私の中の植民地主義(14)】

 民主主義と平和主義の日本国憲法前文、第1条、第10条が「国民」と「非国民」を分かつ分水嶺である――鵜飼哲の指摘は、「非国民」が大日本帝国時代の産物であることと別に、現在の日本国において「非国民」が創出されるメカニズムを端的に表しています。

 現在の「非国民」とは誰のことでしょうか。鵜飼は「まつろわぬ者」と呼びます。日頃あまり使わない言葉ですが、祭ろうでも祀ろうでもなく「服ふ/順ふ」と書いて、服従する、従うという意味の言葉です。

 憲法第1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」です。「主権の存する日本国民の総意」に基づいて象徴天皇制が成立します。憲法前文には一度も登場しない天皇ですが、大日本帝国憲法「改正」の所産のため、手続的には、大日本帝国元帥であった絶対制の「朕」が日本国憲法を「裁可・公布」しました。

 憲法前文と第1条に「国民」が登場しますが、誰のことであるのか一切言及がありません。法務官僚の恣意的判断で旧植民地出身者を排除し、沖縄県民の選挙権を停止して衆議院選挙を実施し、日本国憲法を制定しました。国民とは誰かは官僚が秘密裏に自由に決めたのです。

 まつろう者とは、内では象徴天皇制国家を支え、治安維持法等による弾圧犠牲者を放置し、外ではかつての戦争犯罪と植民地支配をきちんと反省しないまま、日米安保体制という侵略的軍事同盟を受容しながら、憲法9条を根拠に独りよがりに平和主義者になったつもりの「日本国民」を指しているのです。

 憲法第10条は「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」とし、国籍法が制定されました。旧植民地出身者の国籍を一方的に剥奪し(国籍選択権を与えず)、琉球/沖縄県をアメリカに貸し出しました。さらに国籍法は、皇室典範と同様に男系主義を採用し、日本男子の子どもは日本国籍と定め、女性を「半国民」にしました。1985年、女性差別撤廃条約批准に伴い国籍法を改正して、母親が日本人の場合も国籍を取得できるようにして、男女平等に改正されたのです。

 憲法及び国籍法は「国民と非国民」を分断する基本線を明確に引きました。ここでの「非国民」は「法的に国民でない者」のことです。

 鵜飼が言う「まつろわぬ者」はそれだけではありません。「法的に国民である者」であっても、象徴天皇制国家に帰依しない道を選択した者、大日本帝国の栄光への復帰に抗う者、マジョリティたる日本国民の専制を肯んじない者たちもまた「非国民」と名指され、周縁に追いやられてきました。

 99%のマジョリティが日本国民であり、90%が日米同盟を支持し、過去の戦争犯罪を隠蔽し、ヘイト・スピーチが横行する社会にあって、主体的に変革への道を選択した者――それがまつろわぬ者であり、「来るべき非国民」なのです。

 *本連載は残す所あと2回で、350回目で終了となります。
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