2021年02月12日 1661号

【原発避難者群馬訴訟控訴審 国の責任否定する不当判決】

 「原発推進の現政権に沿った『忖度(そんたく)判決』だ」「こんな判決ではまた原発大事故が起きるぞ」―1月21日、原発事故損害賠償・群馬訴訟の控訴審判決を受けた東京高裁前は怒りにあふれた。全国約30件の集団訴訟第1審で初めて国の責任を東京電力と同等に課した群馬・前橋地裁判決を高裁は覆し、国の責任を否定する不当判決を言い渡した。

 判決は、関連裁判で認知された地震調査研究推進本部の2002年長期評価に対し、土木学会の知見と整合しない、と否定。津波の発生を予見できたとは言えない、国が規制権限を行使しなかったのは「著しく合理性を欠くとは認められない」と責任を否定した。

 生業(なりわい)訴訟仙台高裁判決(9月30日)で示された推進本部評価―「国自らが地震に関する調査等のために設置した機関である地震本部が公表したものとして、個々の学者や民間団体の一見解とは格段に異なる重要な見解である」と真逆だ。

 判決は、結果回避の可能性を否定する屁理屈を組み立てた。評価に基づいて東電が計算した津波と実際の津波は規模や態様が大きく異なっていた、かりに長期評価の知見に従って対策をとっても事故を回避できなかった、と開き直る。関連控訴審で国側は、防潮堤建設は間に合わなかった、津波は予想とは異なる方角から浸水していた、と共通に主張する。対して原告は、非常電源装置など全電源喪失を防ぐ水密化は時間的にも技術的にも可能で最悪事態は免れたはず、と反論してきた。判決は「考えられていた水密化は原子炉施設内の局所的・部分的なもので、建屋全体の水密化技術は確立していなかった」と論理をすり替えた。

慰謝料も極めて低額

 損害賠償額は1審の約3倍となったが、これは裁判官が帰還困難区域の原告宅視察などを行う浜通り地域での現地進行協議実施が反映されたもの。一方で、区域外避難者への慰謝料は30万〜70万円と極めて低額に抑えられた。

 報告集会で鈴木克昌弁護団長は「原発施設はいいかげんな設計でも仕方がないと言うのと同じだ。これではまた事故が起こる。到底容認できない」と批判した。

 いわき市から前橋市に避難した原告・丹治(たんじ)杉江さんは「負けるはずはないと思っていたのでショックだ。国から『(区域外避難者の存在が)国土の評価を下げることになる。在住者のこころを傷つける』とまで言われた。原告の苦しみをわかってない。国の原発推進政策に忖度した判決だ」と涙をこらえて語った。

 生業訴訟の馬奈木厳太郎弁護士は「仙台高裁判決とは全く正反対のことが書かれている。理由もこれまでの判決の中で最もひどいものだ。最高裁で共に闘っていこう」と述べた。
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