2021年02月19日 1662号

【新型コロナ/ワクチン頼みの菅政権/「決め手」にはほど遠い/まず検査、隔離・保護/基本的感染症対策を】

 「先進」各国の間で新型コロナウイルス感染症ワクチン接種が競われている。日本政府も「ワクチンが決め手」という。だが、ワクチンについてはまだわからないことが多い。ワクチン頼みではなく、基本的な防疫対策がまず必要だ。

ワクチンの効果は

 ワクチン接種の目的は2つ。第一は、個人に病気への抵抗力をつけ発症を防ぐこと、発症時の症状を緩和すること。次に多くの個人が抵抗力を持つことで、病気の蔓延(まんえん)を防ぐこと(集団免疫。集団の中で7割の人が抵抗を持つことが必要とされる)。この視点から、日本政府が現在接種の第一候補とする米国製薬企業ファイザーのワクチンを見ていく。

 ファイザーは、複数の国で4万3448人に接種した第V層試験で95%以上の有効性を示したとの治験結果を世界5大医学雑誌の中で最も権威あるとされるThe New England Journal of Medicine(NEJM、米・マサチューセッツ内科外科学会発行)に公表した。日本での報道や多くの医師の解説もこの論文に基づいている。「有効性が95%」とは、感染した人の発症の危険性がワクチン非接種者に比べ10分の1以下になることが期待される(「期待される」に傍点)という意味だ。


治験結果の評価に異論も

 一方、こちらも5大医学雑誌に数えられるBritish Medical Journal(BMJ、英国医師会発行)副編集長は同じ治験結果について以下の評価を下している。

1 効果の評価が「新型コロナ症状有り、かつ、PCR陽性」で95%の効果を発揮したとしているが「新型コロナ症状有り(PCR陽性または陰性)」全員で減少は19%のみだ。

 PCR検査は現在可能な検査方法の中では一番精度が高いがもちろん100%ではない。検査機関による精度のばらつきもある。ワクチンの第1の目的が病気の予防や苦痛軽減とすれば、PCR陽性かどうかにかかわらず、効果は症状をどれだけ減らせるのかで測られるべきである。その場合の効果は19%だった。FDA(米食品医薬品局)など規制当局が求めている有効性は50%以上だ。

2 PCRの結果に関わらず、入院や死亡が減らないとワクチンの意味はないが、データが示されていない。

 接種しなくても軽症で後遺症もなく治癒(ちゆ)するのであれば、個々の接種者にとっては害の可能性を背負ってまで接種する利益が不明。

3 感染予防の調査がされておらず効果が不明。

 感染拡大を防ぐという社会的な利益は不明。

4 実質的に二重目隠し検査となっていない。

 治験では、誰に目的の薬を使ったかを医療者・被験者が分からないようにする(二重盲検比較試験)。結果の評価に予断を持ち込ませないためだ。だが、ファイザーの治験では、鎮痛解熱剤使用がワクチン接種者に多く、医療者にワクチン接種群が分かってしまう。これは、治験の公正性に疑念を生む。

データの開示が必要

 加えて、日本感染症学会ワクチン委員会「COVID―19ワクチンに関する提言」(以下「提言」)は、「重症化予防効果の評価は今後の課題」「75歳以上では対象者の数が十分でなく評価できていない」「国内治験が重要だが、海外に比べて罹患率が低くかなりの時間がかかる」「免疫持続性の評価ができていない」と指摘する。

 現時点でわかっていないことも多い。まずすべてのデータ開示が必要だ。

ワクチンの害は

 ワクチンは発熱・痛みなどを伴うことが不可避だが、ファイザーのワクチンは強く出る傾向がある。

 ノルウェーでは、75歳以上のファイザーのワクチン接種者4万2000人(1人2回接種)から29人の死亡者が出ており、同国公衆衛生研究所は「比較的軽度の副作用でも、重度の虚弱性を有する人には深刻な結果をもたらす可能性がある」としている。日本では80歳以上のコロナ死者数は10万人あたり19人。ノルウェーの結果は同69人となり約3・6倍にあたる。

 また、この治験の過程で、アナフィラキシーショック(強度のアレルギー反応)が2例出た。他の疾病でのワクチンでは100万回に1回以下だからかなり多い。

 接種による痛みの頻度も70〜80%で日常生活に支障が出るほどの痛みは15〜30%だ。成人のインフルエンザワクチンでは、痛みの頻度は10〜22%であり、頻度も重さもはるかに高いと「提言」は指摘する。

 ワクチン接種者が発症時に非接種者よりも症状が重くなる「ワクチン関連疾患増悪」や、ワクチン接種で作られた抗体が感染を強める「抗体依存性感染増強」という現象などは長期観察しないとわからない。

信頼損ねる政治主導

 「ワクチンは無効で危険」と言っているのではない。安全で効果的なワクチンが増えるのは良いことだ。しかし、効果と害については、治験段階ですべて判明しないことは常だ。今後、数千万人、数億人と接種が進めば徐々に明らかになってくる。情報の開示と多くの専門家による科学的な評価が重要で、政策としてワクチンを拙速に進めるべきではない。

 だが日本政府は違う。

 1月18日、菅義偉(よしひで)首相は「新型コロナワクチンの対応について」とする記者会見を開いた。

 その中で「ワクチンは感染症対策の決め手であります」とし、ただ一つの国内認可ワクチンもないのに接種体制整備に躍起だ。

 導入を見込む3社のうち1社は承認申請もされていない。政治主導で事実上「申請さえ出れば即承認」が既定方針とさえ見える。

 ファイザーのワクチンでは、厚生労働省は当初「2月末国内の治験結果提出、3月認可」と見込んでいた。だが官邸主導でファイザーに働きかけ、1月30日に治験結果を提出させた。2月15日にも、承認する見通しという。国内治験数はたったの160例だ。

厳格な科学的検証を

 「ワープスピードでワクチン開発」と宣伝したトランプ前大統領、治験計画など地元のワクチン開発に介入した大阪維新の会の吉村洋文(よしむらひろふみ)大阪府知事や松井一郎(まついいちろう)大阪市長のように新型コロナワクチン開発での政治主導が目立つ。

 健康な人に接種するワクチンは、厳格な科学的検証が必要だ。仮に優秀なワクチンだとしても、政治介入は信頼性を傷つける。しかも集団免疫を得るまで数年〜5年は必要というのが、多くの専門家の見方だ。ワクチン接種は菅の言うような「決め手」にはならないし、「業務上必要」と医療従事者などへの接種強要があってはならない。

 大規模な社会的検査、感染者隔離・保護という感染拡大防止対策が今も全く不十分であり、緊急に必要な対策だ。基本的な防疫を軽んじてはいけない。
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