2021年02月19日 1662号

【五輪組織委 森会長の女性差別発言/「わきまえろ」という言論封殺/こんな連中が「コロナ禍でも五輪」】

 「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」――東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の発言に批判が噴出している。発言は女性差別そのもので、民主主義の否定でもある。この差別発言を看過した組織委が進めてきた東京五輪など開催するべきではない。

世界中から批判殺到

 問題の発言は2月3日に行われた日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会の場でとびだした。森は、JOCが女性理事の人数を増やしていく方針を掲げていることに触れ、次のように語り出した。

 「女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。うちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今? 5人か。10人に見えた」

 「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです。女性を増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると、誰かが言っていました」

 「私どもの組織委にも女性は7人くらいおられますが、みんなわきまえておられる。みんな競技団体からのご出身、また国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。お話もきちっと的を得ており、非常に役立っている」

 女性への偏見に満ちた差別発言であることは明らかだ。「男女平等の原則の完全実施」を目指すとした五輪憲章にも反している。それなのに、出席者は誰ひとり森をとがめず、追随の笑いさえ起きた。世界中から非難の声、会長辞任要求が上がるのは当然だ。

中止論にイラ立ち

 森発言の根底に「男女共同参画」への反感があることは間違いない。ただし今回の発言は一般論にとどまらない。特定の対象に向けた腹いせであり、さらには口封じの意味合いを持っていたと思われる。

 2019年8月、JOC理事会は「公の場で話せない内容が多く、本音の議論ができない」という山下泰裕会長の提案で非公開化された。この決議に反対票を投じたのはいずれも女性の理事であった。

 その一人である山口香(かおり)理事は昨年3月、新型コロナウイルス感染症が大流行している事態を鑑み、「東京大会は延期すべきだ」と発言。現在も、日本政府や国際オリンピック委員会の開催に固執する姿勢を疑問視する発信を続けている。

 いわく「世界で200万人超の死者が出ているという現実を前に、『五輪は人類がコロナに打ち勝った証し』という言葉がむなしく聞こえる」「国民を置いてきぼりにした前のめり姿勢は、五輪開催でスポーツ本来の価値を実現するのではなく、政治とか経済とか、別の理由や思惑があるだろうと冷めた目で見られていると思う」(1/26朝日)。

 中止・延期の意見が8割を占める世論に寄り添った指摘だが、「コロナがどういうかたちであろうと必ずやる」と強がる森には裏切り行為と映った。その憤懣が「物言う女はめんどくさい」という差別意識と結びつき、今回の暴言となったのだろう。

形だけの民主主義

 森発言は民主主義の否定でもある。彼の認識では、会議は意思決定の場ではない。結論はすでに決まっている。会議は合意の体裁を取り繕う儀式なのだ。そして女性の役割は会議を彩る「飾り」でしかない。本当の意思決定の場からは排除されている。

 飾りは飾りらしく、その立場を「わきまえて」振る舞うべき。余計なことを言ってセレモニーの進行を邪魔してはならない――森が言おうとしたのはこういうことである。男性優位の価値観が染みついた自民党の長老に典型的な発想だ。

 さらに、森の言葉の裏には「男同士なら空気は読めるよな」という意味がある。これもまた「上の意向」を「わきまえて」行動する忖度マシンになれ、ということだ。同調圧力に支配された日本の悪しき組織文化が凝縮されている。

 森は、小渕恵三首相が急死した混乱の中、自民党幹部の談合で総理大臣になった人物だ。いわば密室談合政治の象徴といえる。現在の菅義偉首相も「裏から手を回す」手法を得意とする政治家である。同類に「自浄作用」は期待できないということだ。

 セクハラおやじとパワハラおやじが民意を無視してやりたがっている東京五輪。このコロナ禍の中で感染拡大につながる巨大イベントを強行する必要はどこにもない。さっさと返上し、政府はコロナ対策に専念すべきである。    (M)

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