2021年02月26日 1663号

【デジタル関連6法案の危険性/個人情報の国家管理と資本による利用】

 菅政権は「目玉政策」の一つであるデジタル庁の設置法案をはじめとするデジタル関連法案を2月9日、閣議決定した。「公的給付や行政手続きが迅速に行える」と利便性を強調するが、要は国家による個人情報の一元管理と資本によるデータ利用に道を開くものだ。コロナ禍のどさくさにまぎれ、個人情報の保護の仕組みを一気に書き換えようというのである。

 今回提出の関連法案は6本(表)。新設5本と関連の法律を一気に変える整備法案である。



 問題は何か。

 「デジタル社会形成基本法」(表中の法案(1))。従来の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(2001年)の名称付け直しではない。20年前に掲げた「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」が失敗に終わった危機感から、政府主導で「国際競争力の強化」を本気で進めようとデジタル庁を内閣に設置した(長は内閣総理大臣、法案(2)6条)。そこには、国、地方公共団体の情報システムの共同化、個人番号の利用範囲の拡大、情報の活用を「積極的に推進する措置を講じなければならない」(法案(1)29条)と書き込んでいる。

国、自治体行政情報の一元化

 デジタル庁の任務の一つは、この行政データを一元化することにある。これまで自治体では、各種の行政手続きにかかる個人データは手書き台帳をベースに電子化して、運用している。システム開発企業や導入時期が異なり、自治体ごとに千差万別の状態にある。これを政府主導で統一するための法案が(6)「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」だ。

 どんな事務を対象とするのか。デジタル庁の前身といえるIT総合戦略本部の分科会では主要17業務があげられている。住民基本台帳から住民税、国民年金、生活保護、健康管理、就学等。住民の生活情報が網羅されている。法案では「標準化対象事務」として政令で定める。つまり、いつでも拡大することができる。

 独自施策を上乗せしている自治体にとっては、それに対応できるシステムが必要である。だがこの法案では「標準化基準に適合するものでなければならない」と政府のシステムを強要する。独自システムを使う場合は「互換性の確保」が条件とくぎを刺しているのだ。

 国と対等であるはずの自治体は、デジタル化推進の下で再び「政府の一機関」へと逆戻りさせられる。それを象徴するのが「地方公共団体情報システム機構(J―LIS)」の改変だ(法案(3))。全自治体の住民基本情報を管理しマイナンバーカードの発行管理などの事務を行うこの組織は、自治体の代表者会議が運営する地方共同法人だが、この法人を実質上、政府の監督下に置く。情報を国家が支配することになるのだ。

 情報の一元化の仕上げはマイナンバーの活用にある。マイナンバーの利用範囲はいまだ税と社会保障、災害対策に限られているが、今回提出された法案(3)には国家資格の登録や転職時に使用者間で労働者の情報提供を可能にしている。また法案(4)(5)は、預貯金口座との紐付けを可能とするものだ。

危うい個人情報保護の仕組み

 (4)は本人の希望、承諾が必要とされているが、義務化に向けた一歩であることは間違いない。(5)は、いわゆるコロナ給付金の支給の遅れを逆手にとった公的給付金の受け皿としてマイナンバーとともに口座を登録させようというのである。

 ウェブ上に設けられたマイナポータルは、マイナンバーによる申請手続きや情報管理の「利便性」をうたい文句にしている。だが、逆から見ればすべての個人情報が紐づけられているのである。ウェブの運営者となるデジタル庁は「複数の国の行政機関、地方公共団体その他の公的機関及び民間事業者が利用する官民データにかかるデータの標準化」を推進することを任務としている(法案(2)4条)。

 なぜ標準化が必要なのか。ビッグデータの掌握が権力にとっても、資本にとっても必要不可欠となっているからだ。権力にとっては個人監視の強化のためであり、資本にとっては市場の創出へ誘導するためだ。

 法案(3)には、個人情報保護3法の一本化や仮名加工の個人情報利用を広げるための整備のほか、極めて重大な改悪がいくつも紛れ込んでいるのだ。

 いま個人情報保護の仕組みをいかに強化するかが問われている。目先の「利便さ」に惑わされて、権力や資本に個人情報を自由に操らせてはならない。
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