2021年02月26日 1663号

【21春闘 人件費削減をむきだし 経団連 経営労働政策特別委員会報告 「ジョブ型雇用」で労働者をモノ扱い】

 経団連は1月19日、2021年春闘の経営側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)を発表した。

徹底して賃金抑え込み

 日本の実質賃金は、約20年にわたって低下し続けている。OECD(経済協力開発機構)各国の賃金が同時期に15〜38%上昇しているのに比べ、日本は10%以上低下。コロナ禍による収入減は多くの労働者を生活苦に追いやっている。賃上げはきわめて切実な要求だ。

 しかし、経団連はコロナを理由に「ベースアップ(賃上げ)の実施は困難」と要求を切り捨てる。収益悪化企業はベアはおろか賃下げさえ示唆し、収益安定企業でも「仕事・役割・貢献度等に応じて重点化」と称して格差を広げる考えを示した。さらに最低賃金も、コロナ禍での中小企業の経営難を口実に抑制を強調し、徹底した賃金の抑え込みを求めている。

 財務省「法人企業統計」によると、2019年度の企業の内部留保は475兆円で過去最高を更新した。

 「報告」は、内部留保蓄積を正当化し、「企業にはポストコロナを見据えた将来への投資が必要であり、内部留保はその原資として活用される」と莫大なため込みを労働者や社会に還元することは拒絶する。



 また、テレワークが拡大していることを好機として、「わが国の硬直的な労働時間法制を見直すべき」と主張する。働く場所・時間帯・目標達成の手段・方法を本人に委ねる制度とし、時間外労働に対する割増賃金支払い義務が免除されるよう法改定を求める。さらに、今は一定制約されている一般業務での働かせ放題の裁量労働制拡大まで求める。

 「報告」は、とりわけ「雇用流動化」と「ジョブ型雇用」の拡大を掲げる。

 経団連は、従来の雇用方式を「新卒一括採用、社内教育を通じた技能習得、職種の変更や勤務地の変更を前提に終身雇用が保障されるメンバーシップ型雇用」と呼び、これに対して「ジョブ型雇用」が欧米で一般的な雇用形態と言う。

「ジョブ型」へ転換狙う

 「ジョブ型雇用」は、「職務記述書」で職務内容や勤務地、労働時間などを明確に定め、労働者は特定の仕事(ジョブ)を得るという形で雇用契約を結ぶ。賃金は職務内容によって定められ、職務が限定されているので所属会社での昇給はない。そのため一つの会社で数年働いたらキャリアアップのために転職。「人材の流動性」が高くなると「報告」は強調する。

 つまり、「ジョブ型雇用」は、仕事がなくなれば労働者は即刻解雇。必要になれば、外部から一定のスキルのある労働力を調達する。要は、採用後に必要となる教育期間やコストの圧縮が狙いであり、労働者のモノ扱いはさらに深刻化する。

 経団連会長企業の日立製作所は、グローバル価格競争に敗北し、2008年度、国内製造業で過去最大の7873億円の赤字に陥った。それを契機に、家電・重電などものづくりの会社から海外のインフラサービス会社へ、国内市場からグローバル市場へとシフト。現在、日立の売上高の半分は海外が占め、社員30万人中14万人が海外人材だ。内外の全社員を対象に「ジョブ型雇用」に変更した。富士通、ソニー、KDDI、資生堂なども「ジョブ型雇用」に転換しつつある。

 経団連の「ジョブ型雇用」推進は、日本企業の衰退を労働者の犠牲と非人間化で乗り切ろうとするものだ。

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 コロナ危機が明らかにしたのは、私たちの命と暮らしを支える必要不可欠なエッセンシャル労働の重要性と、にもかかわらずその労働条件の劣悪さだった。「報告」では、このことに触れながらも労働条件改善には一切言及しない。

 経団連の言う「サステナブル(持続可能な)資本主義」には生きる労働者への配慮は微塵もない。「ジョブ型雇用」、副業・兼業解禁、テレワーク拡大の行きつく先は、徹底した賃金抑制、長時間労働推進、解雇自由化だ。労働者を直撃する政策を許してはならない。
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