2021年02月26日 1663号

【読書室/福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく/榊原崇仁 著 集英社新書 本体900円+税/政治的に無視された被ばく実態】

 福島県では小児甲状腺がんが多発しているが、政府は今も原発事故との関連性を否定している。その根拠として「政府の甲状腺被ばく測定によれば100_シーベルトに達する人はいない」などが挙げられる。

 著者は東京新聞記者。情報公開制度を利用して入手した膨大な資料の中から、「徳島大学チームが…スクリーニング。11歳女児、頸部5―7万cpm(1分間に捉えた放射線の数)」「甲状腺等価線量で100_シーベルト程度」とあるのを発見する。この事実は公表も報道もされてこなかった。しかも、政府が測定したのはわずか1080人。なぜ、こんなに少ないのか。

 著者は当時の関係者を調べ、インタビューを重ねる。その結果、30`以内の住民は避難もしくは屋内退避しているとの理由で30`以内での測定は最初から除外され、ヨウ素131の半減期が8日と短いことを口実に3月いっぱいで調査を終了したことなどがわかる。

 また、避難所で行なわれていたスクリーニングに関連して、「10万cpm程度多数(12万人規模の汚染者発生)」「原発北側(双葉地区)が高線量域である」とのメモも発見。マニュアルでは、1万3千cpm(甲状腺等価線量で100_シーベルト相当)が基準とされ、これを超えた場合は除染後に甲状腺被ばく測定を行なうことになっていたが、基準超えが続発したため、途中で基準が10万cpmに引き上げられた。甲状腺被ばく測定も実施されなかった。こうした事実はこれまで取り上げられたことはない。

 今加速する原発再稼働の動きに対して、スクリーニングや甲状腺被ばく測定の計画についても厳しい監視が必要だ。    (U)
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