2021年03月05日 1664号
【デジタル関連で個人情報保護法を改悪/保護より利用優先へ自治体を統制】
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菅政権は、デジタル庁設置をこの9月とする法案を提出している。つまり、設置法を含むデジタル関連6法案を予算関連として、21年度予算案とともに、年度内に成立させるつもりだ。
しかし、提出法案には個人データの「保護」よりも「利活用優先」にさらに踏み込む個人情報保護法の改悪が含まれている。しかも関連整備法案として60近くにのぼる法改定の中に潜り込ませており、マスコミの注目度も低い。デジタル化と「個人データの活用」を求める資本の要請に100%応えるものになっているのだ。
狙いは「オンライン結合制限」の撤廃
デジタル関連整備法案の50条、51条に個人情報保護法の改悪が入っている。政府は変更を4点にまとめている(表)。最初にあげているのは、民間企業、行政機関、独立行政法人等それぞれに制定されている個人情報保護法を1本化。自治体毎に定めている個人情報保護条例さえも包括する。データ利用の利便を図り、保護措置の緩和をはかろうというわけだ。
中でも独自の保護措置を定める自治体に対し「国の施策との整合性に配慮」と縛りをかけ、政府の行政機関である個人情報保護委員会(内閣府の外局、委員長は内閣総理大臣が任命)の統制下に置こうとしている。
自治体が独自の条例を制定しようとする場合、事前に個人情報保護委員会に確認し、制定後も委員会に届出が必要とされる。委員会の「助言・勧告」に従わない自治体には「国地方係争処理委員会」や訴訟により従わせるつもりでいる。
政府にとって特に目ざわりなのは、9割の自治体が、保有する行政データに「外部機関とのオンライン結合制限」を設けていることだ。
これには歴史的な経過がある。住民基本台帳の電算化が問題となった1980年前後から各自治体は個人情報保護の条例を制定し始めた。政府が03年、個人情報保護法とともに住民基本台帳の全国ネットワーク(住基ネット)化を図ろうとした際に、システムの安全性、確かな保護を求める条例を盾にネットワーク接続を拒否する自治体も出た。条例が野放図な個人データ利用の歯止めとなってきたのだ。
行政データの利用を広げようと「地方公共団体情報システムの標準化」法案(前号参照)を出している政府は各自治体の保護措置をどうしても骨抜きにする必要があるわけだ。
ビッグデータ利用への地ならし
すでに15年の個人情報保護法改定で政府は、法の目的に「個人情報の活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会の実現に資する」旨を加え、「匿名加工情報」という概念を作り出し、行政情報を含む個人データの活用に大きくかじを切っている。さらに、20年6月の改定では「仮名加工情報」を追加した。
ともに、個人が特定できないように加工したデータである点は同じだ。「匿名加工情報」は復元が不可能なように個人情報の一部を削除・改変。名前を削除したり、実年齢を年代に置き換えたりすることで目的外使用や第三者への提供ができるようになる。
ただこれではビッグデータ分析上の制約になる。そこで、第三者への提供制限はあるものの一部を記号化する程度の加工で利用できるように「仮名加工情報」を創った。
背景に、19年12月に就職情報サイト「リクナビ」の運営会社リクルートキャリアが起こした、大手企業への面接学生内定辞退率提供事件がある。リクルートが対象学生のサイト閲覧、アンケート書込み情報を収集し、学生の動向を数値化。氏名をハッシュ化(暗号化の方法)することで「匿名加工情報」として企業に渡したが、企業側は手元リストとつき合わせれば容易に本人を特定できた。この点が「匿名加工情報」にならず、違反に問われた。
こうしたネット情報利用を合法化するために、新たに「仮名加工情報」を作り出し資本の要請に応えたわけだ。
行政データも「匿名加工」などにより利用可能データとしたい政府は、自治体の個人情報保護条例に取り込むよう求めている。自治体は「国との整合」を強要されることになる。
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他に、今回の改定ポイントに、学術研究目的であれば本人同意を得ることなく個人データを利用できることもあがっている。データ活用にむけてハードルはどんどん低くなっている。マイナンバーカードの普及、行政情報の一元化などマイナンバーへの紐づけと表裏一体で進んでいるのが、個人情報保護の緩和なのである。
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