2021年03月05日 1664号

【菅首相の長男、総務省幹部を違法接待/モリ・カケ以上の国政私物化/縁故資本主義の実態バレた】

 菅義偉首相の長男が絡んだ「違法接待」疑惑が持ちあがっている。放送行政を管轄する総務省の高級官僚が、長男が勤務する放送事業会社から頻繁に接待を受けていたのである。国政を私物化し、身内や仲間内で利権を漁る――この構造は安倍前政権の森友・加計事件と同じものだ。

接待要員として活躍

 週刊文春のスクープで発覚した「違法接待」疑惑は、総務省幹部・職員計11人の処分に発展した。問題の枠組みを簡単に説明しよう。

 まず、菅首相の長男(正剛氏)が登場する。彼は父親が総務大臣だった時代に秘書官を務めていた。その後、放送事業会社「東北新社」に入社する。同社の創業者は菅首相の後援者だった。縁故採用の次はコネ入社というわけだ。

 東北新社は正剛氏を総務省対応の切り札として重宝してきた。衛星放送事業を手掛ける同社にとって、許認可権を握る総務省との関係維持は最重要案件だからである。総務省内に今も大きな影響力を持つ菅義偉の長男――そのブランド力は絶大なものがあった。

 昨年10月から12月にかけて、東北新社は総務省幹部を高級料理店で幾度も接待していた。折しも同社の子会社である衛星放送チャンネルが業務認定の更新期を迎えていた。正剛氏は接待要員として活躍した。

 報道で判明した接待官僚は、谷脇康彦・総務審議官や秋本芳徳・情報流通行政局長(当時)ら4人。谷脇は菅首相の肝いり政策「携帯料金引き下げ」の旗振り役で、「次の事務次官」と目されていた。秋本は衛星放送の許認可権を一手に握る部局のトップだった。

 国家公務員倫理規定は利害関係者からの会食費負担や金品授受を禁じている。総務省幹部がこれを知らないわけがない。違法接待に応じたのは、やはり「総理の息子」からの呼び出しだったからであろう。

 週刊文春が公開した接待時の音声記録によると、東北新社側は衛星放送の新規参入推進に積極的な小林史明・元総務政務官(自民党衆院議員)を名指しで批判。秋本局長も同調する発言をしていた。競合が増える新規参入を阻止すべく、菅長男というカードを使って巻き返そうとする意図が透けて見える。

歪められた放送行政

 問題の核心は、菅首相と東北新社の“深い関係”が放送行政に及ぼした影響である。武田良太総務相は「放送行政がゆがめられたことは全くない」(2/16衆院本会議」と断言したが、それを覆す事実が次々に明るみに出ている。

 たとえば、正剛氏が取締役を務める「囲碁将棋チャンネル」(東北新社の子会社)が不自然な特別待遇を受けていた一件だ。同チャンネルは約3年前にCS放送業務の認定を受けているのだが、この時認定された12社16番組のうち、同チャンネルだけがハイビジョン放送ではなかった。

 総務省は当時、ハイビジョンへの切り替えを進めており、審査基準でもこの点が重視されていた。ところが、非ハイビジョンの「囲碁将棋チャンネル」が業務認定された。ハイビジョンでも落選した事例があるにもかかわらず、だ。

 疑惑の認定の責任者は山田真貴子。現在の内閣広報官である。NHKに圧力をかけ、『ニュースウォッチ9』の有馬嘉男キャスターを降板に追い込んだことでも知られる。彼女も菅長男の接待を受けていた。

背後に菅スポンサー

 「囲碁将棋チャンネル」には菅首相が横浜市議だった頃からの有力スポンサーが関わっている。飲食店情報サイト大手「ぐるなび」の滝久雄会長だ。

 滝会長は囲碁振興に力を入れてきた。囲碁好きの多い政財界に足場を築くためだ。彼が開く囲碁イベントの番組を菅ジュニアの衛星局が制作し、JR東日本をはじめとする菅の親密企業がスポンサーにつく。東北新社にしてみれば、コネ入社の見返りは十分すぎるほどあるのである。

 「ぐるなび」はGoToイート事業の受注者だ。また、滝会長は2020年度の文化功労者に選ばれている。「菅首相の息子」を深堀すると、こうした「お手盛り」の事例がいくつも出てくる。だから官僚に虚偽答弁をさせ、関係を隠しておきたかったのだ。

 「既得権益の打破を目指す改革派」「世襲とは無縁の叩き上げ」。菅は首相就任にあたり、自身をこうアピールしてきた。そのメッキは今回の一件で完全にはげ落ちた。縁故資本主義の権化のような実像が丸見えになったのだ。

 自民党幹部からは「首相の身内が絡んだスキャンダルとしては、安倍前政権の森友問題以上に深刻」(2/19東洋経済オンライン)との声が上がっている。「官僚の処分だけで幕引き」とさせてはならない。(M)

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