2021年03月05日 1664号

【福島原発千葉訴訟控訴審判決 国の責任認め逆転勝訴 「群馬の仇をとった 希望の光 灯した」】

 福島原発事故の責任を国と東京電力に求め福島から千葉に避難した40数人が訴えた千葉訴訟の控訴審判決が2月19日、東京高裁で出された。国の責任を免罪した一審判決を否定しその責任を明確にした上で、国・東電に総額2億7800万円(国には1億3500万円)の賠償を命じる逆転勝利判決を言い渡した。

 千葉訴訟は地裁段階で1陣訴訟・2陣訴訟とも敗訴。1月21日群馬訴訟・東京高裁控訴審判決で、地裁判決が覆され国の責任が否定されたばかり。支援者は複雑な思いで判決を見守った。そこに「逆転勝訴」の垂れ幕。半信半疑で見つめ、一瞬の沈黙後に拍手と「よかった」の声が上がった。

 直後の報告集会で、滝沢信弁護団事務局長は開口一番「群馬の仇をとった。希望の光を灯した。新たな出発の起点になる」とほっとした表情。南相馬から避難した原告団共同代表の南原聖寿さんは「昨夜は寝付けなかった。子や孫に希望の持てる判決で、びっくりしている」と声を詰まらせた。

群馬不当判決に反駁

 今判決の特徴は、同高裁での先行の群馬控訴審判決を意識した反駁の論理を展開していることだ。昨年9月、仙台高裁判決(生業訴訟)は地震調査研究推進本部の長期評価を「民間団体の一見解とは格段に異なる重要な見解である」としたが、先行判決は長期評価より土木学会の津波評価技術を優先できるとした。今判決では、規制機関(経済産業大臣)が「少なくともこれ(津波評価技術)と同等の科学的信頼性を有する長期評価に示された見解について、これを判断の基礎としないことは、著しく合理性を欠く」との論理で責任を明示した。その上で、「長期評価による津波評価をしていれば、敷地を大きく超える波高の到来を認識しえた」と断罪した。

 また、結果回避の可能性について、先行判決は長期評価に基づいて措置を取っていても防潮堤建設は間に合わなかったとしていたが、「長期評価の公表から1年後に技術基準適合命令を発していれば地震までの約7年半を費やせば措置を講じることができた」と対抗。浸水を防ぐ水密化について「建屋全体の水密化技術は確立していなかった」ので事故は避けられなかったとする論理には、「タービン建屋や重要機器室の水密化の措置は可能であり、これを想定すべきであった」と、全電源喪失による事故は回避できたと断定した。

裁判官現地協議も反映

 福武公子弁護団長は損害賠償について「一審で認めた『ふるさと喪失慰謝料』の表現は避けているが、避難者が帰還か否かの状況に置かれること自体精神的な損害だとして賠償した」と避難生活の慰謝料だけでなく、生活基盤の変化を対象とした賠償を評価した。裁判官に飯舘村や南相馬市などで現地進行協議を実施させてきたことの反映だ。しかし被害に見合わない額の低さに上告を検討している。

 生業訴訟の馬奈木厳太郎弁護士は「結果回避については仙台高裁より一歩踏み込んだ判決だ。最高裁に向けての課題は、東電の重過失責任を認めさせること。住民の命や健康は利益の天秤にはかけられない」と新たな決意を述べた。

 この日も裏方で走り回った原告と家族を支援する会の山本進さん。「よかった、よかった。これで胸張って歩ける」と表情を緩めた。



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS