2021年03月12日 1665号

【1665号主張 国家の個人支配と資本の市場創出 デジタル監視法案は撤回だ】

超監視社会の誕生

 菅政権は2月9日、デジタル改革関連法案を閣議決定し国会に提出した。雇用調整助成金のシステム不具合や定額給付金支給の遅れなど政府の失態を「デジタル化の遅れ」にすり替え、市民の個人情報一元管理を進めるもので、デジタル監視法案というべきだ。

 その柱は、9月設置をもくろむデジタル庁創設に向け新たに提唱された「データ共同利用権」という考え方だ。「公益性」を名目に同意がなくても個人情報を利用できるとし、データ主体の権利保護に欠ける。個人情報は丸裸にされ、国家が管理する「超監視社会」を作り出す危険なものだ。

 個人情報管理が人権侵害をもたらした例は、ナチスのユダヤ人差別やハンセン病患者の強制隔離など数限りない。最近では内定辞退率予測を企業に提供したリクナビ事件がある。基本的人権を侵害する「権利」など断じて認められない。

なぜ今デジタル法案

 デジタル監視法案は、個人情報をビッグデータとして活用したいグローバル資本の求めに応えるものである。ある実験ではスマホにあるグーグルの検索履歴、位置情報、写真の3点だけで、住所、氏名、職業、趣味までほぼ正確に推定した。マイナンバーを活用し、医療、教育、雇用、消費など個人情報を結び付け、生涯管理する。消費や日常の行動を誘導し、新たな市場を創出するのが狙いだ。

 その際に邪魔になるのが国に先んじて個人情報を保護してきた自治体の個人情報保護条例だ。9割以上の自治体はオンライン結合制限規定を設けている。個人情報保護法制の一本化と全国的なシステム共通化によって、自治体の保護措置を骨抜きにし、レベルの低い国の基準に合わせようとする。個人情報保護のために設けられてきたいくつもの壁を取り払おうとするのだ。

 この横暴に対し、東京の国立市、あきるの市などが慎重な検討を求める意見書を採択している。

窮地の菅もろとも廃案

 プライバシー権は、民主主義の維持・発展に欠くことのできない極めて重要な権利である。人は監視されていると感じると、自らの価値観や信念に基づいて自律的に判断したり、情報を収集して自由に行動し、表現することが困難になる。民主主義の根幹を破壊するデジタル監視法案は撤回、廃案以外にない。

 コロナ無策やモリ・カケ以上の国家私物化といえる首相の長男による違法接待など、菅政権は窮地に追い込まれている。直近の地方選挙では自民党候補が次々と落選。批判の広がりに菅直結の山田広報官はついに辞職した。4月には、衆院北海道2区、参院広島選挙区など国政選挙が相次ぐ。菅腐敗政権もろともデジタル監視法案に市民のノーを突きつけよう。

  (3月1日) 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS