2021年03月12日 1665号

【福島原発事故から10年 今も続く放射能の汚染と被害/責任とらぬ国・東電 廃炉はほど遠い】

 3月11日で2011年の福島第一原発事故から丸10年を迎える。2月13日夜に発生した福島県沖地震(最大震度6強)は、福島原発の危険性を改めて思い起こさせた。政府は東京五輪を「復興五輪」と称し、原発事故を終わったことにしようともくろんでいるが、廃炉は進まず、放射能汚染は今もさまざまな形で残っている。避難者をはじめとする被害者救済の責任を国も東京電力も全く果たしていない。

地震で原子炉の損傷拡大

 2月の地震で福島原発は影響を受けなかったのか。当初、「特段の異常なし」とされたが、その後、1号機と3号機の格納容器内の水位が低下していることがわかった。10年前の原発事故による損傷が広がったか、別の箇所が損傷したことが原因と考えられる。

 また、1号機では格納容器内の圧力が低下していることも判明した。これは、格納容器内の気体がどこからか外に漏れ出たことを意味しており、放射性物質が拡散していないか、近辺のモニタリングポストの動きに注意する必要がある。

 さらに、3号機に設置されていた地震計が2つとも故障したまま放置されていたため、地震データが記録されなかったことまで明らかになった(何というズサンさか)。

 これらは事故後10年たってもいまだ不安定であることを示しており、今後も大きな余震が起きる可能性がある中で、福島第一原発は最大のリスクであり続ける。

問題山積の事故処理・廃炉作業

汚染水処理

 1〜3号機の原子炉内には、核燃料や原子炉、構造物などが溶けて固まった超高汚染の燃料デブリが存在する。このデブリを冷やすために原子炉に注水され続けている冷却水が大量の汚染水となっている。汚染水を多核種除去設備(ALPS)に通して一定の処理を施した水がタンクに溜められており、タンクの数は1000基を超えている。

 国と東電はこれ以上タンクを増設する敷地がないとの理由で、「処理水」(トリチウム水とも呼ばれるが、実際にはストロンチウムなど他の核種も残留する汚染水である)の海洋放出に踏み切ろうとしている。

 使える敷地がないというのはウソだ。フリーライター木野龍逸(りゅういち)によれば、敷地内には利用計画が決まっていない4区画があり、11万d強を貯留できるタンク増設が可能。24年秋までは満杯にはならないという(12/23ヤフーニュース)。

デブリ取り出し

 国と東電は、格納容器内の調査が最も進んでいる2号機から21年中に燃料デブリを数c試験的に取り出すとしていたが、新型コロナの影響で専用ロボットアームの動作試験などが大幅に遅れているとして、年内の取り出し開始を断念した。

 ところが、その直後、原子力規制委員会の調査チームがまとめた報告書案は2、3号機の格納容器の上ぶたの高濃度放射能汚染を明かした。2号機上ぶたの放射性セシウム濃度は2京〜4京ベクレル(京は兆の1万倍)。放射線量は毎時10シーベルトを超え、1時間あびれば死に至る線量だ。3号機も3京ベクレルときわめて高い。

 格納容器上部からのデブリ取り出しは全く困難となった。デブリ取り出し予定は大幅に遅れるばかりか、そもそも格納容器は解体できるのかという廃炉計画の根本的再検討も迫られる。


汚染土処分

 第一原発周辺に存在する中間貯蔵施設には汚染土約1400万立方bの保管が予定されている。昨年末、すでに7割を超えた。

 「保管は最長30年」「県外での最終処分」が中間貯蔵施設の条件であり、汚染土は再搬出、処分が前提だ。環境省は最終処分の量を減らすために、45年までには放射性物質の濃度が1`c当たり8000ベクレル以下になるとして、8割を公共事業の盛り土などに再利用する方針を示している。だが、この濃度は原子炉等規制法の規則でいう「放射性廃棄物」(1`c当たり100ベクレル以上)の80倍も高く、危惧する声は根強い。

 環境省は福島県二本松市で農道の路床材にする実証事業を行おうとしたが、住民たちが反対運動を展開。事業は事実上、撤回された。南相馬市小高(おだか)区でも、高速道路4車線化工事の盛り土材に使う計画に地元区長や住民は反対している。

帰還できない避難住民

 こうした福島の状況は避難指示によって強制避難させられた住民の動向にも反映せざるを得ない。

 政府は、東京五輪までに避難指示区域をなくそうと無理やり避難指示を解除してきた(帰還困難区域はさすがに無理だった)。しかし、解除されたとはいえ住民の帰還はそれほど進んではいない。居住率(住民登録者のうち実際に住んでいる人の割合)でみると、田村市(90・1%)、川内村(81・3%)は例外的で、15年9月に解除され帰還困難区域も残っていない楢葉町(ならはまち)でも59・6%にすぎない。17年春に避難指示が一部解除された浪江町は9・3%、富岡町は12・7%にとどまる。

健康不安64%

 朝日新聞社と福島放送が実施した県民世論調査(2/20〜2/21)によると、原発の廃炉作業が予定通り進むことに「期待できない」が74%にのぼった。汚染水の海洋放出については「反対」が53%と「賛成」35%を上回った。事故による放射性物質が自分や家族に与える影響について不安を「大いに感じている」16%、「ある程度感じている」48%、合わせて64%で、昨年の56%から増加した。

 多くの福島県民は原発事故は終わっていないと思っている。

損害賠償未決着

 今でも多くの住民が避難生活を送っている。避難者数は、福島県の集計では約3万6千人であるのに対し、県内市町村が把握する数を合計すると約6万7千人にのぼる。3万人以上の開きがある。これは、福島県が仮設住宅を出て災害公営住宅に移転した人などを集計から除外しているからだ。

 避難者を少なく見せたい福島県は集計上の操作だけでなく、移転先が見つからず国家公務員住宅などに住み続けている避難者に家賃2倍請求や明け渡し訴訟で追い出そうとさえしている。

 避難者の存在と1万人を超える被災者・避難者による集団訴訟は、事故被害が今も続き、国・東電がその責任を果たしていないことを誰の目にも見える形で示している。国・東電に対し避難者への完全賠償、生活再建策を要求していかなければならない。

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