2021年03月12日 1665号
【生活保護費減額は違法/大阪地裁が画期的判決/恣意的引き下げは裁量権濫用と断罪】
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生活保護費の引き下げは憲法及び生活保護法違反として、大阪府内の受給者42人が減額処分取り消しなどを求めた裁判で、大阪地裁は2月22日、原告らの居住する大阪市など府内12市が行った減額決定を取り消す判決を出した。憲法判断はせず、国への慰謝料請求は認めなかったが、専門家の意見も聞かず厚生労働大臣が生活扶助基準額を引き下げたのは裁量権逸脱・濫用と認めた点は重要だ。
全国29の都道府県で同種の裁判(原告約千人)が行われており、昨年6月名古屋地裁が引き下げを容認していることからも、大阪地裁での原告勝利判決は画期的な意味を持つ。
好き勝手に数字操作
政府は、2013年から15年にかけ3回にわたり生活保護基準を改定。生活保護費のうち日常生活に必要な食費・光熱費等の生活扶助基準額を平均6・5%、最大10%引き下げた。理由は(1)消費水準を所得下位10%の世帯の実態に合わせるための「ゆがみ調整」と(2)物価下落に伴う「デフレ調整」としている。
判決はこのデフレ調整を問題にした。対象となった消費者物価は08年から11年の4年間。08年はリーマンショックの年であり、直前まで物価は高騰。それからの下落が著しかった。判決は「特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大きくなることは、本件改定が始まった13年には明らかだった」と恣意的な数値採用を批判した。
さらに厚労省は、総務省の公表する消費者物価指数(マイナス2・35%)によるのではなく、独自に生活扶助相当消費者物価指数(マイナス4・78%)を算出し、引き下げ額を決めた。厚労省の計算はなぜ、総務省の倍の下落率になるのか。最大の要因は、教養娯楽用耐久財(テレビ、ビデオレコーダー、パソコンなど)の物価の大幅な下落であり、それらの項目の比重を意図的に高めて算出したためだ。一般世帯に比べ被保護世帯がそれら耐久財の消費比率が高いとするのは無茶だ。悪意があるとしか思えない。
判決はこれらの統計データ採用の不合理性を指摘。「健康で文化的な最低限度の生活水準を維持し」(生活保護法3条)「その需要を満たす十分なもの」(同法8条2項)とは言い難いとして違法性を認めた。厳しい生活実態を訴え生存権保障を求めた原告らの声が受け止められたのである。
政権奪取に悪用
政府・厚労省はなぜこれほど無謀なことを行ったのか。引き下げを始めた13年といえば、自民党が政権に復帰した年だ。その前年、芸能人親族の生活保護受給へのバッシングの先頭に自民党議員がたち、12月末衆院選では「生活保護費1割削減」を掲げて勝利。第2次安倍政権の公約のために無理やり根拠を創る必要があったのだ。18年度からさらに5%引き下げている。
保護基準の引き下げのためには数字改ざんもいとわない政府・厚労省、自民党の罪は重い。判決を確定させ、生活保護をはじめ社会保障の拡充の足掛かりとしなければならない。 |
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