2021年03月12日 1665号

【コロナ禍に年金を減額/毎年削減ルールを4月適用/今こそ最低保障年金へ】

 昨年12月9日、国会閉会中審査の衆院厚生労働委員会で見過ごせない議論があった。共産党の宮本徹議員が「GoToトラベルの影響で年金がマイナスになる。特例措置をつくって影響が及ばないようすべき」と求めたのだ。田村憲久厚生労働相は年金が下がる事実を認めた。

 案の定、厚労省は1月22日、21年度の年金額を20年度から0・1%引き下げると発表した。年金が減額されるのは物価が下落したときだったのだが、今回は物価変動率が0%なのに減らした。厚労省は「21年度の年金額は、名目手取り賃金変動率(マイナス0・1%)による」と説明する。

 厚労省は、名目手取り賃金変動率を過去3年度分の平均実質賃金変動率に前年の物価変動率と可処分所得割合変化率を乗じて算出している。ではGoToトラベルの影響がなぜ年金額におよぶのか。GoToトラベルによって宿泊料が引き下げられ、他の物価による上昇分を押し下げ0%とする一因となった。今回、物価と可処分所得割合は0%=変化なしだったところから、平均実質賃金変動率の減少だけが反映し、年金額を引き下げたというわけだ。

 コロナ禍の下でのGoToトラベルは、年金生活者(高齢者)の多くにとって無縁な「格安旅行」を提供することで、年金額減少という生活を直撃する被害を与えることになった。

 ここで確認しておくべきことは次の点だ。これまでは年金受給中ならば、賃金変動率がマイナスであっても物価変動率0%では減額されなかった。ところが、16年の年金法改悪で、「少子高齢化」の名目で年金給付水準を自動的に減額するというルール変更がされているのだ。

賃金低下が年金減に

 変更点は2点。まず、賃金・物価スライド。今回のように賃金減少が物価下降を下回れば、下降率が大きい賃金低下に合わせて減額する。物価が上昇しようが賃金が下がれば、減額になる。これが21年4月から適用になる。もう1点。マクロ経済スライドの調整について、今回のような未調整分を翌年度以降に繰り越すことにした(18年4月から実施)。年金削減のための最悪ルールだ。

 公的年金には、憲法第25条の生存権に基づいて高齢者の生活を下支えする理念(国民年金法第1条)がある。この理念を放棄するような考え方を打ち出したのが16年の改悪だった。現役世代の負担能力に応じた給付とする「世代間不公平の是正」。高齢者の生活は現役世代の負担能力、賃金次第となり、政府の責任は問われないことにしてしまったのである。

 直近の名目賃金が2年連続して減少していること、低賃金の非正規が増えていること、1990年代から賃金が低迷していることをみれば、今後も賃金低下が懸念される。さらに新型コロナ不況が長引けば、賃下げが横行するだろう。それはそのまま、年金の減額につながることに他ならない。

公的責任を果たせ

 週刊誌(『週刊ポスト』2月19日号)が実質賃金2%減が続く場合の年金額を試算した。それによると、月27万4900円の年金を受給する共働き夫婦の場合、今年が年2400円減、来年に年2万5200円減、2年後は年6万8400円減になるという。これはもう、生活破壊でしかない。

 仮に、新型コロナ感染が収束して「景気」が回復し物価も賃金も上がった場合でも、年金はそれに見合って上がらない。マクロ経済スライドの調整率分が差し引かれるためだ。過去の未実施分の調整率も加算されると大幅な引き下げとなる。この最悪ルールがある限り、年金は下がり続けるのである。

 現役世代の負担能力に「依存」するというのではなく、高齢者の生存権を保障する年金とするためには、公的資金による最低保障年金を新設することが必要だ。

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実質賃金変動率をマイナス2%として計算。「共働き夫婦」ケースはともに厚生年金40年加入
「妻が専業主婦」ケースは夫が厚生年金40年加入。「自営業夫婦」ケースは夫婦ともに国民年金40年加入。
(週刊ポスト 2月19日号より作成)
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