2021年03月12日 1665号

【非国民がやってきた!(350)(最終回)来るべき非国民のために】

 本連載は本誌965号(2006年12月)に始まりました。アフガニスタン・イラク両国際戦犯民衆法廷運動を終えて、無防備地域宣言運動に力を注いでいた時期です。

 私は軍隊のない国家調査の旅に出て、2005年春から2008年正月休みにかけて欧州、インド洋、太平洋、カリブ海地域の27カ国を回り、毎月『法と民主主義』という雑誌に報告を連載しました。『軍隊のない国家』(日本評論社)は2008年4月出版です。

 無防備地域宣言運動と軍隊のない国家調査でかなり忙しかったにもかかわらず、私が勝手に思いついて「非国民がやってきた!」という連載をしたいと編集者に申し出ました。それが14年も続く長期連載になるとは夢にも思いませんでした。

 当初は私が非国民と考える幸徳秋水、石川啄木、鶴彬、小林多喜二らを取り上げました。当時、女性はすべて「非国民・半国民」とされていましたから管野すが、金子文子、長谷川テルなども取り上げました。

 最初の著書『非国民がやってきた!――戦争と差別に抗して』(耕文社)は2009年、2冊目の『国民を殺す国家――非国民がやってきた!Part2』(耕文社)は2013年、3冊目の『パロディのパロディ――井上ひさし再入門(非国民がやってきた! Part3)』(耕文社)は2016年の出版です。

 勤務先の東京造形大学では教養演習科目「非国民」という授業を開設しました。日本で唯一の「非国民」授業です。文科省には秘密です。開設時には同僚たちの間で話題にならないように立ち回りました。話題になると、こんな授業は認めてもらえません。学生は「怪しい授業だ」と笑いながら私に付き合ってくれました。

 その東京造形大学を私はこの3月末日をもって定年退職となります。「非国民」授業はなくなり、偶然同じ時期に本連載も最終回を迎えました。連載を終えるにあたって「来るべき非国民」について一言触れておきましょう。

 マルクスは世界を変革する新しい哲学と経済学批判を樹立して、労働者階級に変革の夢を託しました。フェミニズムは性差別の現実を解剖し、女性解放運動をリードしました。植民地解放闘争、人種民族差別反対闘争、先住民族解放運動から現在の反ヘイト運動、反グローバリズム運動、BLM運動に至るまで、解放を求め抵抗する主体をいかに立ち上げるかは思想の現実的課題であり続けています。

 それぞれの主体があり、思想と理論があります。連帯が必要なことは言うまでもありません。しかし連帯のための総合的理論は儚い夢と化してきました。連帯を求めて排除に行きつくのが歴史の教訓と言わざるを得ません。

 それでは分断統治に抵抗できなくなります。連帯を手放さず、しかし排除に陥ることなく、分断されても、それぞれの解放と抵抗をいかに追求するか。当座の戦術は「遊撃する非国民」の個別の実践にあります。

 零れ落ち、排除され、周縁に追いやられ、抑圧される恐怖の前で立ち尽くすことなく、「服ふ/順ふ」ことなく、「自分を生きる」小さき者たちの実践――ここから世界を変えていく一歩を踏み出したい、と。

 長い間、わがままな連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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