2021年03月19日 1666号

【潜水艦が民間船に衝突/軍事優先の転換を】

 2月8日、高知県足摺(あしずり)岬沖で海上自衛隊潜水艦「そうりゅう」が民間貨物船に衝突した。

 「そうりゅう」は潜舵(潜水のために使う水平方向に貼りだした舵)などが壊れ、乗組員3人が軽傷を負った。一方、衝突された香港船籍の貨物船「オーシャンアルテミス」は衝突を示す広範囲の擦過痕(さっかこん)と20センチの亀裂が発見されている。けが人はなかった。「そうりゅう」は2950d、貨物船は5万1208dで、この大きさの差から貨物船は衝突にも気づかず、事なきを得た。




船舶密集地域で浮上

 事故は、「そうりゅう」が海中から海上へと浮上する途中で起こった。

 潜水艦は海中に潜み軍事行動を行うことに存在意義≠ェある。海中では、当然目視による周辺監視はできない。監視はソナー(水中音波探知機)が頼りだ。浮上時には海面ぎりぎりで潜望鏡を出すまで目視による安全確認はできない。

 一方、洋上の一般船舶は水中の潜水艦を探査しながら航行することはない。突然浮上してくる潜水艦など避けようがない。事故の責任は安全確認を怠った潜水艦側にある。貨物船がソナーの死角に入ったまま浮上したのか。現場周辺海域は漁が盛んで漁船の往来も多い。衝突されたのが小型船であればひとたまりもなかった。そんな海域で浮上すること自体言語道断だ。

えひめ丸事件20年

 「そうりゅう」の事故は、「えひめ丸」事故から20年を迎える前々日に起きた。

 2001年2月10日、ハワイ・オアフ島沖で宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が米原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され沈没。生徒4人、教員2人、乗組員3人の計9人が犠牲となった。

 当時、海軍は原潜を削減する動きに抵抗するための世論工作としての民間人向けの「広報サービス」を行っていた。「グリーンビル」は招待客を乗船させ、操縦桿まで握らせていた。乗組員は接客に専心、海上の安全確認もおざなりのまま性能を誇示するために緊急浮上して見せた。プレジャーボートなど民間船がひしめき合う場所で、「えひめ丸」は緊急浮上した原潜に衝突され、5分ほどの間に沈没。9人の命が奪われた。


繰り返される軍の艦事故

 自衛隊の潜水艦も過去に重大な事故を起こしている。国土交通省海難審判所が「日本の重大海難事故」に数える「なだしお」事件だ。

 1988年、展示訓練(一般向けデモンストレーション)後、横須賀港へ帰還途中の海上自衛隊潜水艦「なだしお」が浮上航行中に神奈川県沖の浦賀水道で遊漁船「第一富士丸」と衝突。遊漁船は「なだしお」に乗り上げ横転。ほんの2分ほどの間に沈没し、乗員・乗客30人が船内にとじ込められたまま犠牲となり、16人が負傷した。



 事件で明るみになったのは、海上自衛隊艦船の横暴ぶりだ。「民間船舶は自衛艦に航路をゆずって当然」と言わんばかりのありさまだった。浦賀水道は幅6`強の隘路(あいろ)に当時1日700隻超の船舶が往来していた世界でも有数の過密航路だった。事故が起きても不思議はない。

 重大海難事故は潜水艦だけではない。イージス艦「あたご」は、2008年、横須賀港寄港途上に漁船「清徳丸」に衝突した。「あたご」は7750d、「清徳丸」は7・3d。衝突されたらひとたまりもない。「清徳丸」は船体中央から真っ二つに切断され、漁師親子2人が行方不明のまま死亡扱いとされた。この事件も「あたご」側に回避義務があったが回避せず、本来船上で行うべき見張りも船内の窓からのぞくだけだった。2014年にも、瀬戸内海で輸送艦「おおすみ」が釣り船と衝突し、2人を死傷させている。

軍の存在こそが脅威

 繰り返される重大事故の原因は、無用の長物の軍用艦が「そこのけそこのけ」と、安全確認もそこそこに大手をふって航行していることにある。「軍隊は住民を守らない」どころか直接危害を加える脅威となっている。

 菅政権はコロナ禍の今もこうした軍艦に何百・何千億円もつぎ込む。対中国封じ込めとする潜水艦新造には684億円だ。軍事優先の政策を根本的に変えない限り、市民の安全は守れない。
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