2021年03月19日 1666号

【ミャンマー/軍が市民殺傷 批判控える日本政府/民主主義を守る不服従の闘いに連帯を】

 「平和的なデモ隊に対する残忍な弾圧をやめよ」―ミャンマー軍事政権に対し3月4日、国連のバチェレ人権高等弁務官が声明を出した。少なくとも54人の死者を出し、1700人以上拘束したと非難している。短機関銃を連射し、うずくまる市民や救助隊にまで暴行を加える保安部隊の映像は衝撃を与えた。

民主化おそれる軍

 これ程の残虐行為が起こっているにもかかわらず、日本を含め各国政府の動きは鈍い。そこには軍のビジネスパートナーの地位を維持したい思惑が絡んでいる。

 軍がクーデターを起こした2月1日は、昨年11月の総選挙後初の議会、連邦議会上下両院議員による大統領選出の日。6割の議席を占める国民民主連盟(NLD)のウィンミン大統領2期目が始まるはずだった。

 ところが、総選挙で惨敗した元軍人らの政党である連邦団結発展党(USDP)が「NLDの不正選挙」と非難。軍はそれを口実にアウンサンスーチー国家顧問や大統領など閣僚・NLD幹部らを拘束し、軍司令官が全権を手にした。

 08年軍政時に制定した憲法は軍の特権を保障している。連邦議会(上院224、下院440)のうちそれぞれ4分の1の議席は軍人枠。憲法改正(議員75%の賛成が必要)には軍の同意が欠かせない仕掛けになっている。他にも内務省、国防省、国境省を軍の支配下におき、軍のすべて業務は外部監査を受けないとしている。

 実権を維持する仕組みがありながら軍はなぜ政権奪取に出たのか。民主化の流れに恐れをなしたこととともに軍事独裁でも孤立を回避できる思惑があった。

軍ビジネスが資金源

 軍の資金源は民間企業以上に利益を上げる軍所有企業にある。国連の調査団報告(19年)によれば軍幹部が所有する2社(MEHL、MEC)の下、106の子会社が建設・金融など120以上の事業を行っている。これらと合弁企業をつくったり取引がある外国企業は60社近い。日本企業ではキリンホールディングス(2/5合弁解消表明)であったり、ニコンやクレジット会社JCBなどだ。

 最大都市ヤンゴンでの開発プロジェクトも軍の資金源だ。軍所有地に高級商業施設を建設。軍は土地の賃貸料が手に入るうえ、契約(最長70年)終了後、建物を所有しさらに利益を得る。この開発はJBIC(国際協力銀行)やホテルオークラなど日本企業による。

 ミャンマーにとって日本は中国に次ぐODA(政府開発援助)供与国だ。軍事政権下で「民主化」が進み始めた13年、ミャンマー入りした安倍首相(当時)は「ティラワ経済特区」開発の他、債務帳消しやODA供与を約束。現地の日本商工会には400社を超える日本企業が登録。中国の3分の1程度の賃金水準であるミャンマーでビジネスチャンスをうかがっている。

 一方、中国はミャンマー西海岸チャオピュー港を核とする経済特区開発と雲南省を結ぶ石油・天然ガスパイプライン建設が目下のビッグプロジェクト。インド洋に直接アクセスできる重要路だ。他にも中国が世界の8割を生産するレアアース製品。その原料の半分をミャンマーから輸入する。

 プロジェクト近郊や資源産出地は少数民族の居住地でもあり、地域の安定が欠かせない。弾圧を受けた少数民族ロヒンギャの居住区はチャオピューに近い。そのロヒンギャはミャンマー政府が公的に認める民族135には含まれない。実際には300もの少数民族が存在するともいわれている。

 つまり、軍事政権の暴力支配を支えているのは経済権益を優先する日本や中国というわけだ。これがミャンマー軍の「勝算」だったといえる。

つながるアジアの若者

 軍の弾圧にも負けず抗議行動が続いている。人口5千万人のミャンマーで約数百万人がゼネストに立ち上がった(2/22)。その中心にコスプレ姿や手製プラカードを手にする10代、20代の若者がいる。香港やタイの民主化運動から学んだものだという。他にも香港からは催涙弾対策や有用なアプリを、三本指を掲げる抗議のサインはタイからだ。

 それぞれの国で独裁政権に抗する若者たちはSNSを通じて経験を交流し、連帯した。東南アジアに共通する飲み物の名をとり「ミルクティー同盟」と呼ばれている。

 経済的利権を優先し、けん制し合う各国政府に対し、民主主義をもとめる闘争は連帯のネットワークを作り出している。在日ミャンマー人の対日本政府要請行動に連帯し、アジアの市民の闘いとつながるときだ。

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