2021年03月26日 1667号
【MDS集会基調講演(要旨)/コロナ危機につけ込む菅政権の最重点/個人情報を手中にするデジタル監視法】
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MDS(民主主義的社会主義運動)は3月13、14日に各地で集会を開き、市民の命と暮らしを守らない菅内閣打倒の闘いを呼びかけた。基調の要旨を紹介する(まとめは編集部)。
コロナ下で医療破壊を推進する菅政権
コロナ禍に必要なことは、医療体制を整備しPCR検査拡大により治療、感染予防を進めることであり、市民の生活保障を確実に行うことだ。
だが菅政権は前政権同様、PCR検査を拡大しようとはしない。検査を拡げ陽性者が増えれば、病床や医師、看護師など医療関係者の確保、保健所の態勢充実など、これまでの医療切り捨て(新自由主義政策)とは正反対の政策に転換を迫られるからである。
現に今国会に提出した医療制度改定一括法案、医療法改定案は、医療破壊をもたらすものだ。75歳以上の医療費窓口負担を2割にし、自治体に国民健康保険料の値上げをさせる一括法案。医療法改定案は医師の長時間労働を容認し、公立、公的病院削減をすすめる。厚労省は2018年で72・9万床あった高度急性期・急性期病床を25年度には53・2万床に減らす「地域医療構想」を推進しているのである【図(1)】。
一方で、コロナ危機さえグローバル資本の利益のために利用してきた。
給付金事業は電通に利益を、GotoトラベルはJTBなど大手旅行会社、高級ホテルなどを助けた。日本の大富豪は政府の金融緩和・株価引き上げ政策の結果、資産を増やしている。日銀は大量の株式を買い入れ、昨年12月、国内で最大の株保有者となった。日経平均株価は3万円前後まで上昇。大企業はコロナ以前の状態に回復。トヨタは2兆円、ソフトバンクは3兆円もの純利益を手にする見込みである。
しかし市民・労働者の生活は悪化している。コロナを原因とする解雇・雇止めは1月29日現在、昨年5月以降で8万4733人(うち非正規雇用労働者4万435人)。女性労働者の割合は極めて大きい【図(2)】。
デジタル化で個人情報利用狙う
菅政権はコロナ対策に集中すべき時にもかかわらず、デジタル化関連法【表】の成立を最重点に置いている。
めざすはデジタル庁設置、各自治体の保有する個人情報の一元化。狙いは個人情報を国家管理しグローバル資本の利用を可能とするところにある。「ひとにぎりの便利さと引き換えに市民のプライバシーを政府に売り渡そうとするものである。まさに『デジタル監視法』」(デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク意見書2/25)との指摘通りだ。
個人情報の利用をグローバル資本は強く欲している。日本経済団体連合会は、「政府・地方自治体が保有する情報は、民間が新たなサービスを提供していく際の基礎データとしてニーズが高い。しかし、データの様式は各自治体にゆだねられており、共有や連携が円滑に進まない事態となっている」(11/17)と一元化を要求。法案はこれに応えるものになっている。
障害となるが地方自治体の個人情報保護だ。特に外部機関とのオンライン結合制限を設けている点である。このため政府は、「地方公共団体の個人情報保護制度についても全国的な共通ルールを規定し、全体の所管を個人情報保護委員会に一元化する」という。政府の統制下に置かれる自治体からは反対を表明する意見書が出されている。
個人情報の収集に使おうとしているのがマイナンバーカードだ。政府は2022年度末にはほぼ全国民にマイナンバーカードを持たせることを目標に、普及を強力に推進するとしている【図(3)】。健康保険、運転免許、預金口座やコロナワクチン接種情報もマイナンバーに紐づける。
すでに公務員を中心にマイナンバーカード取得強要がはじまっている。東山梨消防本部では取得しないと昇給にも影響が出ると脅されている。
この個人情報を一元管理するのがデジタル庁だ。規模は500人。その内100人を民間から採用する。情報産業のグローバル資本(日立、富士通、NTT、NECなど)が入り込むのは明白だ。グローバル資本は行政と一体となることで国民全体の情報を握ることになる。
資本主義の存続か社会主義への転換か
政府、グローバル資本が個人情報を握るとどうなるか。
米国大統領選が暗示している。16年の選挙で勝利したトランプ陣営はフェイスブックの「いいね」やツイッターの投稿、あらゆる種類のオンライン上のフットプリント(足跡)を利用し、本人も気づかないうちに怒りや不安を醸成し、投票行動を誘導した。政権維持のために利用することは日本でも起こりえることだ。
個人情報の一元化は情報産業に一大市場を提供するだけでなく、個人の性格や日常行動を分析するプロファイリングにより消費も作り出す。「人の性格の特徴に合わせてメッセージやデザインを変えて送られる広告は、そうでない広告に比べて40%多くクリックされ、50%多く商品購入につながった」という。
デジタル化は「手続き簡単」「印鑑不要」などという小さな利便の問題ではない。グローバル資本主義を存続させるためのものなのである。
我々がめざすものは市民の命と暮らしが守られ、基本的人権が守られる社会である。一部の富裕層が一層富み、市民生活が悪化する社会ではない。デジタル化を進めるグローバル資本主義か、市民の基本的人権、命と暮らしを守る民主主義的社会主義か。その岐路に立っている。民主主義的社会主義に進もう。
参考文献など
◆NHK取材班『AIvs民主主義』(NHK出版社新書)
◆白藤博行『デジタル化でどうなる暮らしと地方自治』(自治体研究所)
◆本紙1663号/同1664号
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オンラインで読める『論説 民主主義的社会主義』No.22
「命と生活を守らず、支配のためのデジタル化を進める 菅内閣を倒そう」(2021年3月MDS集会の基調講演)
民主主義的社会主義運動 理論政策委員会 |
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