2021年03月26日 1667号

【夫婦別姓に反対する自民・極右/「家族の絆」を強調する理由/社会保障切り捨てを正当化】

 自民党の国会議員有志50人が「選択的夫婦別姓制度」に反対するよう呼びかける書状を地方議員に送っていた。この圧力文書に丸川珠代・男女共同参画担当相も名を連ねていた。連中はなぜ「夫婦別姓」に強く反対するのか。背景を探ると、やはり改憲・極右団体「日本会議」の存在があった。

地方議会に圧力

 問題の書状の送り主は、自民党の国会議員有志がつくる議員連盟「『絆』を紡ぐ会」。共同代表の高市早苗(前総務相。少子化・男女共同参画担当相だったこともある)によると、自民党籍を持つ42道府県議会の議長に送ったという。

 その内容は、選択的夫婦別姓制度の導入に賛同する意見書を議会で採択しないよう求めるもの。地方議会の独立性を脅かす圧力であり、国会議員の威光を笠に着た不当介入であることは明らかだ。

 昨年11月に発足したこの議員連盟の目的は、選択的夫婦別姓制度の導入を阻止することにあった。12月25日に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」から「選択的夫婦別姓」の文言が消えてしまったのも連中の仕業である。

 内閣府作成の当初案では、選択的夫婦別姓制度の導入について「必要な対応を進める」と、従来よりも踏み込んだ記述になっていた。夫婦同姓を法律で義務付けている国は日本以外にないことや、国連の女性差別撤廃委員会から是正勧告を再三受けていることにも言及していた。

 ところが、これらの記述は自民党内の作業部会ですべて削除されてしまった。反発する極右議員が議員連盟を立ち上げ、激しく抵抗したからである。基本計画の表現は大きく後退したものになり、夫婦別姓制度の導入にブレーキをかける文言まで盛り込まれた。

 反対運動を主導した顔ぶれは、前述の高市早苗、もう一人の共同代表である山谷えり子、片山さつき(元女性活躍担当相)、衛藤晟一(前少子化対策担当相)、長尾敬(自民党副幹事長)等々。いずれも安倍晋三前首相に近い面々だ。

 地方議会への圧力文書に名を連ねた丸川珠代・男女共同参画担当相も、自他ともに認める「安倍チルドレン」だ。丸川にしてみれば、親分の意向に沿った行為をしたまでなのだろう。

背後に日本会議

 選択的夫婦別姓は「選択的」という言葉が示すように、別姓を義務付けているわけではない。同姓を選ぶことも自由である。ではなぜ極右議員たちは頑なに反対するのか。

 安倍晋三はかつて次のように述べていた。「夫婦別姓は家族の解体を意味します。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)。これは日教組が教育現場で実行していることです」(『WiLL』2010年7月号)

 この主張は改憲・右翼団体「日本会議」の受け売りである。同会は夫婦別姓制度の導入を「家族の戦略を断ち切る周到な戦略の第一歩」とみなし、大規模な反対運動をくり広げてきた。

 日本会議系のシンクタンクが発行している雑誌『明日への選択』2月号では、山谷えり子が反対の論理を述べている。いわく、夫婦別姓を認めると、氏が個人に所属するものになっていく。和合の共同体である家族に、行き過ぎた個人主義や権利概念を持ち込むことには慎重であるべきだ…。

 山谷らの考えでは、家族=家こそが社会の基礎単位であり、それが集まって日本国家という大家族を形成していることになる。そして、夫婦別姓を個人主義や権利意識に由来するものと警戒している。つまり彼らの国家観とは相容れず、選択制であっても認められない、というのである。

新自由主義を補完

 「家族の絆」の強調は単なる復古主義ではない。新自由主義政策の補完という意味がある。社会保障制度を縮小し、公的サービスを家族に肩代わりさせる。これを正当化するために、家族の相互扶助を日本の家族の伝統的美風として持ち上げているのである

 自民党の改憲草案(2002年版)が憲法24条の改変を掲げたのも同じ理由からだ。彼らは憲法にまで、家族の助け合い義務を盛り込もうとしているのである。

 山谷えり子は菅義偉首相のスローガンである「自助、共助、公助、そして絆」を持ち出し、家族の解体につながる夫婦別姓に反対という主張を展開した(昨年11月26日付の毎日新聞)。

 厚顔無恥というほかない。社会保障の切り捨てを押し進め、家族を追い詰めてきたのは安倍・菅政権ではないか。そんな政権を支えてきた面々が「家族の絆」をふりかざして夫婦別姓に反対する−。これを欺瞞というのである。   (M)

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