2021年03月26日 1667号

【読書室/分極社会アメリカ 2020年米国大統領選を追って/朝日新聞取材班著 朝日新書 本体930円+税/変革の担い手は若者と黒人】

 2016年の大統領選でのトランプ当選は、アメリカに深刻な分断をもたらした。本書は、分断が分極といえるほどに至った現実をレポートしている。

 トランプの自国第一主義は、共和党保守層にとどまらず一部民主党支持層にも浸透し、強固な岩盤支持層を形成していた。トランプは再選を確信していた。

 しかし2020年コロナ禍が世界を襲った。トランプは無策ばかりか分断と憎悪をあおるのみだった。結果、医療崩壊が起き、犠牲者が広がった。犠牲の人種間格差も明らかだった。警察官による黒人暴行殺害は社会の不平等に対する市民の怒りに火をつけ、ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を軽んじるな)の運動が広がった。

 コロナ禍で、社会の格差はさらに拡大した。アマゾンCEOのベゾスは株価上昇で資産を4兆円も増やした。一方で、アマゾンの労働者にはマスクも支給されず、感染が拡大し、抗議すれば解雇された。

 深刻化する社会の不平等をリーマン危機以来の資本主義の失敗と考える若者たちは社会主義に引き寄せられている。民主主義的社会主義者を自称し「メディケアフォーオール」などの政策を掲げたサンダースやオカシオコルテスは、若者や黒人、ヒスパニックなどの支持を集めた。現金給付拡大や失業給付上乗せなどの政策をバイデンに認めさせ、当選の原動力となった。

 トランプ打倒後、オカシオコルテスは「これから重要なのは約束を守らせること」と政策の実行を訴えた。それが今実現しつつある。

 本書から、アメリカ社会で確実に起きている変化とその担い手の存在を読み取ることができる。 (N)
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