2021年04月02日 1668号

【未来への責任(319)被害者が求める誠実な謝罪】

 1月8日、ソウル地裁は日本軍「慰安婦」被害者が起こした訴訟で原告の請求を認め、被告日本政府に賠償支払いを命じた。裁判所は日本政府の「主権免除」の主張を退けた。画期的判決だ。

 「完全勝訴」とも言える判決に当の原告らがどう語っているのか。「慰安婦」問題の解決について改めて考えてみたい。

 原告の李玉善(イオクソン)さんは「1億ウォン受け取ってもダメだ。…日本の謝罪が先だ」「私たちの気持ちが晴れてこそ真の解決だ。…日本が謝罪しなければならない。お金ではダメだ」(中央日報)という。同趣旨の訴訟を起こしている李容洙(イヨンス)さんも「言葉遊びは要りません。心からの謝罪でなければ。日本の首相が世界に聞こえるように被害者に直接謝罪しなければ。今からでも日本の公式謝罪があれば、訴訟を取り下げます」(朝鮮日報)と語った。

 画期的判決にも被害者たちの心は晴れていない。なぜだろうか。

 日本政府から謝罪を聞いていないからだと被害者は言う。アジア女性基金で、首相は「お詫び」の手紙を送った。しかし、その手紙は、「民間から集めたお金はいらない」と拒絶した被害者には届けられなかった。2015年「合意」でも、安倍首相は日本政府の「責任」を認め「謝罪」した。しかし、安倍首相は被害者一人一人に謝罪の手紙を出すことについては「毛頭考えていない」と拒絶した。「何回謝ればすむのか」との受け止めもあるが、実際には、被害者一人一人に届き、その心に響くような謝罪はなかったのである。

 「慰安婦」や強制動員など重大な人権侵害を受けた被害者の権利回復に当たっては3つの原則がある。(1)加害者が加害の事実と責任を認めて誠実に謝罪し、(2)その証しとして何らかの金銭的補償を行い、(3)過ちを繰り返さないために問題を後世に伝える。ところが日本政府は「日韓請求権協定で解決済み」にこだわり、誠実に被害者に向き合おうとしてこなかった。

 提訴した被害者は、いきなり裁判に訴えたのではなく、当初「民事調停」を申し立てた。裁判での勝ち負けではなく話し合い、お互いが合意することに意味を見出し「紛争」の解決を図ろうとしていたのだ。しかし、日本政府はこれを拒絶した。訴訟に移行しても一度も出廷しなかった。日本政府は自ら問題解決の回路を断った。その上、出された判決にも従おうとしない。これでは解決するはずがない。

 「慰安婦」被害者は何よりも誠実な謝罪を求めている。今こそ、日本政府はこれに応えるべきだ。

 (強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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