2021年04月09日 1669号

【福島10年 原発推進できないこれだけの理由/「原発は危険」と司法判断続く/再生エネルギーへの転換こそ必要】

 菅義偉首相は昨年10月の所信表明演説で「脱炭素社会の実現」を宣言した。これは、「温室効果ガス削減」を名目にした原発再稼働・増設推進宣言といえる。だが、そのもくろみはすでに壁にぶち当たっている。

「安全」は二の次の原発運転

 この間、原発稼働は危険とする司法判断が相次いだ。さらに電力会社の原発運転能力の欠如さえ露呈した。原発の「安全」などあり得ないということだ。

東海第二 避難計画不備

 まず、3月18日水戸地裁。日本原子力発電(原電)の東海第二原発(茨城県東海村)について、避難計画の不備を理由に再稼働を認めない(運転差し止め)判決を言い渡した。

 現在、原発から半径30`圏内の自治体は広域避難計画の策定が義務づけられている。東海第二原発の場合、圏内14自治体、全国最多の94万人が避難対象となる。

 判決は、広域避難計画を策定しているのが比較的人口の少ない5自治体にとどまっている上、その計画も▽避難先の確保▽避難の際の渋滞発生▽避難手段(バス)の確保▽地震などに備えた複数の避難経路の設定▽放射能汚染を検査する人員や資機材の確保などに課題があることを指摘。「防災体制は極めて不十分で安全性に欠け、人格権侵害の具体的危険がある」として、運転差し止めを命じた。

 東海村元村長の村上達也さんは「94万人が安全に避難できる計画づくりなど不可能だと思ってきた。司法も同じ判断をしたということだろう」(3/19朝日)と語っているが、余計な忖度をしなければ誰でも同じ結論になるはずだ。


運転差し止め判決

 国際原子力機関(IAEA)は原子力施設の安全対策を5段階に分けた「深層防護」の考え方を採用し、原子力事業者に求めている。この第5層が住民の避難計画だが、日本では原子力規制委員会(規制委)の審査対象となっておらず、自治体に任されている。判決は、原子炉から一定の範囲を低人口地帯とする立地審査指針を規制委が採用していないことにも言及し、「人口密集地帯で実効的な避難計画を策定できるのか疑問」と指摘している。

 深層防護の第1層から第4層まで(基準地震動の策定および施設の耐震性、火山による降下火砕物対策、重大事故への対策など)について、判決は「審査基準に不合理な点はなく、規制委の適合性判断に看過し難い過誤、欠落があるとまでは認められない」としている。これ自身は不当な判断だが、第1層から第5層のいずれか1つでも欠落し不十分な場合は周辺住民の生命、身体が侵害される具体的危険があると、運転差し止めの理由を示した。

 規制委の審査対象になっていない避難計画の実効性を正面から取り上げたことは画期的であり、他の差し止め訴訟にも影響を与えるものだ。


大飯 設置許可取り消し

 関西電力の大飯原発(福井県大飯町)。昨年12月4日に大阪地裁が3、4号機の基準地震動設定に関し、規制委が地震動審査ガイドの「経験式の持つばらつきも考慮する」との規定を無視して設置を許可したのは違法であるとして、設置許可を取り消す判決を下した。

 これまでにも原発の運転停止を命じた判決や仮処分決定はあったが、設置許可を取り消したのは初めてで、規制委や電力業界に衝撃を与えた。

 福島原発事故前にくらべると司法も大きく変化しており、国の政策を追認する判決ばかりではなくなっている。

柏崎刈羽 運転不能

 東京電力の柏崎刈羽原発の事態は深刻だ。敷地内への侵入者を検知する16個の機器が一年前から故障しており、代わりに設置していた10個の設備も30日以上も機能が不十分だったことがわかった。規制委は、核セキュリティの4段階評価で最も悪質な「最悪レベル」と認定した。今後、計2千時間の追加検査を実施。検査を終えるには1年以上かかるという。

 規制委の更田豊志委員長は検査期間中は「柏崎刈羽原発が運転に向けた次のステップに入ることはない」と明言した。菅首相も「地元の方々の信頼を損ねる行為で、組織の体質や原発を扱う資格にまで疑念を持たれてしまってもやむをえない」と述べた。

 東電の悪質さは、故障があっても直そうとしないことだ。2月に起きた福島沖地震の際も、福島第一原発の地震計が故障しているのを知りながら放置していたことが発覚した。東電に原発を運営する能力も資格もないと言わねばならない。

 規制委は3月24日、柏崎刈羽原発への核燃料の搬入を禁止する是正措置命令を出すことを決めた。命令は1年以上続く見通しで、当面再稼働は不可能になった。

原発止めても「電力不足」ならず

 自民党政権は2018年、原発による発電割合を30年度に20〜22%まで引き上げることを初めて目標に掲げた。だが、福島原発事故前には54基あった原発のうち24基が廃炉。事故後に改定された原子炉等規制法で、原発の寿命は「原則40年」。かなりの原発を40年以上稼働させないとこの数字は達成できない。

 そのため、「例外」のはずだった「60年運転」が次々に認められる事態となっている。それでも、認められたのは16基、うち再稼働したのが9基(ただし4基は停止中)で、国際エネルギー機関(IEA)の発表(3/15)によると、日本の場合、原発は電源構成の4・3%を占めるにすぎない。原発がなくても電気が足りることは実証済みだ。

世論は7割が原発反対

 世論も、福島原発事故後10年経っても原発反対が多数を占めている。全国の地方紙が連携して実施したアンケートによると、原発について「今も変わらず反対」という人が44・8%いるほか、「賛成だったが今は反対」10・2%、「どちらでもなかったが反対に傾いている」13・9%とこの10年で考えが変わった人がおり、これらを合計すると68・9%の人が原発に反対している。

 また、温室効果ガスの削減手法について「洋上風力など再エネ拡大」73・2%、「電気自動車(EV)など需要面の変革」48・7%、「液化天然ガス(LNG)などCO2排出量が少ない火力の活用」39・4%が上位を占めた。

 震度5クラスの地震の続発や台風・集中豪雨による河川の氾濫の頻発など自然災害への対応が求められる中、福島第一のような原発事故が起これば、日本は壊滅的打撃を受ける。原発から再生エネルギーへの転換を図る時だ。

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