2021年04月09日 1669号

【国際自動車タクシー残業代事件が全面解決 労基法37条守らせる歴史的意義 伊藤委員長の執念実った勝利和解】

 2012年5月、「残業代が支払われていない」と全国際自動車労働組合(国際全労)組合員15人が東京地裁に提訴して8年9か月。第1次から第4次まで205人(和解成立時点では198人)の原告団が闘い続けた訴訟でこの2月、和解が成立し、全面解決した。

 昨年末、最高裁は「長時間労働を抑制するという労働基準法37条の趣旨に反する国際自動車の賃金規則を認めず、労基法37条を守る」との第2次判決を出した。判決を踏まえた今回の和解は、憲法に基づいて労働条件の最低基準を定めた労基法37条を社会的な規範として守らせることを確定し、労働者の権利擁護の上でも歴史的な意義を持つ。

 残業代未払い裁判がここまで長期に及んだのは、働いた時間に対して賃金を支払うという労基法の大原則と、「契約自由」論のどちらを優先させるのかが大きな争点となったからだ。

長期化した審理

 2015年1月、第1次訴訟の勝訴判決は、国際自動車の賃金規則を「公序良俗違反である」とするものだった。この判決を受け、国際全労と首都圏なかまユニオンは弁護団と協力しながら、原告と組合員を拡大し、同年9月、原告178人で約3億円の不払い残業代等を請求する第3次訴訟を新たに提起した。翌年4月には、会社や社内多数派労組の圧力が強まる中で、第4次訴訟(原告22人)も起こす。原告団は合計205人、請求額は約3億5千万円の大型訴訟となった。

 2015年7月、第1次訴訟控訴審では一審判決と同様の勝訴判決を勝ち取ったが、裁判体の異なる第2次訴訟は2016年4月に原告敗訴の判決。判決を出した清水響裁判長は、労基法37条よりも「契約自由の原則」を重視し、社内多数派組合との間で合意した賃金規則は有効と判断した。この判決は、戦後労働法制の基軸である労働時間法制を崩壊させかねないものだ。さらに2017年2月、勝訴を重ねていた第1次訴訟の最高裁判決が出され、東京高裁の判決を破棄、差し戻されることになった。


労基法37条守り抜く

 一審原告と国際全労、弁護団は、最高裁判決は「公序良俗違反ではなく、高裁に差し戻して労基法37条に基づく判断を求めたもの」で敗訴ではないと考え、裁判闘争を継続した。

 その後、清水判決の影響を受け、第3次・第4次訴訟でも地裁敗訴判決が続き、社会的には「残業代ゼロ制度」の導入まで狙われた。しかし、清水判決のように「契約自由」を盾に「労使で合意すれば残業代は支払わなくてもよい」となれば、長時間労働を抑制するための労基法37条は空文化する。闘いは長期化したが、「最高裁での逆転勝訴を勝ち取る」という国際全労伊藤博委員長の思いを受けて闘い続けた。

 2020年3月、最高裁第一小法廷は、国際自動車事件(第1次・第2次訴訟)について、原審(東京高裁)の一審原告敗訴判決を破棄し、東京高裁に差し戻す判決を言い渡した。国際自動車の賃金規則は「長時間労働を抑制するという労基法37条の趣旨に反する」ものとして、労基法37条を守るという一審原告勝訴の判決を勝ち取った。

最高裁判決に基づく和解

 東京高裁に再び差し戻されたが、2021年2月4、9、22日で、4つの事件について最高裁判決に基づいたすべての和解が成立した。和解内容は、一審原告らが納得できる金額の和解金を支払うものとなった。国際自動車だけでなく、長時間労働が改善されない運輸業界で、歩合給から残業代相当額を引くような賃金規則は労基法37条違反であることが確定したのである。

 今回の和解は、1日8時間労働を原則に残業代は割増して支払うとすることで長時間労働を抑制するという労基法37条の趣旨が守られるべき社会的規範であることを定着させる礎となる。同時に、「契約自由」論による労働時間法制の骨抜きを阻み、労働者の権利擁護に大きく寄与する意義ある和解となった。

 原告団団長でもある国際全労委員長の伊藤さんは、和解成立を見届けて2月27日、がんのため逝去された。改めて哀悼の意を表明し、遺志を受け継いで当たり前の労働運動を継続し、「過労死」を生む長時間労働をなくす闘いにつなげたい。

(首都圏なかまユニオン委員長・伴幸生)



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