2021年04月09日 1669号

【みるよむ(579)2021年3月27日配信 イラク平和テレビ局in Japan 本の値上がりとイラク社会―政府による文化破壊政策を許すな―】

 イラクでは読書をする人が減少している。政府が、本の値上がりを抑えず図書館も閉鎖するという文化破壊の結果である。2021年2月、サナテレビはこうした社会状況を取材し、問題提起をした。

 ヨーロッパ諸国などと比べてイラクで読書する人が極端に減っている理由を、サナテレビのレポーターは「貧困率が高まったことだ」と指摘する。

 本屋の主人がインタビューに答える。「本と言っても、安いコピー本もあるが、価格の高いオリジナルの場合もある。出版の諸経費が高騰し、本が値上がりし適正価格におさまらない」

 ところが、コロナ危機の下で若者を中心に大量失業が続いている。「労働者の賃金が1日1万5000ディナール(約1100円)を超えないのに、少なくとも1万ディナール(約750円)する本は買えないのです」と話す。

 サナテレビは政府の文化破壊政策も指摘する。公立図書館への国の資金援助がなくなり、老朽化した図書館は閉館され、1990年代末に作られた夜間図書館は廃止された。

 若者の仕事の場を奪って失業を広げ、新自由主義政策の下で公共施設を切り捨ててきたのは日本も同じだ。

イスラム政治勢力が利用

 「若者が読書を嫌がるようになれば、イスラム政治勢力が利益を得ることになる」と番組は指摘する。

 そして「知識を持たなければ、結果として貧困や専制政治を政治的に変革することもできない。支配的な文化に無批判に従ってしまうことで、自暴自棄へと走らせたり、麻薬に駆り立て、宗派の私兵に参加させてしまう」と続ける。

 この言葉が、番組の最後―イスラム政治勢力が集めた若者を訓練する場面と重なる。科学的な知識や視点が奪われることでもたらされるこのような深刻な状況に、サナテレビは警告を発しているのである。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

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