2021年04月16日 1670号

【未来への責任(320) 歴史修正主義団体に公費投じる政府】

 強制動員真相究明ネットワークは、日本が行ったかつての朝鮮人強制労働の調査や被害者の尊厳回復、歴史の正しい継承をめざし全国各地で取り組んでいる様々な運動のネットワークとして活動を進めてきた団体である。

 2015年にユネスコ世界遺産に登録された明治日本の産業革命遺産の「広報」施設として設置された「産業遺産情報センター」(以下、センター)が昨年6月に一般公開された。しかしその展示は登録時に日本政府が公約した「意思に反して連れて来られ厳しい環境の下で働かされた(forced to work)多くの朝鮮半島出身者等がいたこと」の展示とは真逆の内容となっていた。  

 センターでは元軍艦島(端島)島民の「強制労働はなかった」とする証言映像や一般徴用で国内動員された「恵まれた」待遇の中国人(台湾人)の給与明細など強制労働と関係のない資料が展示され強制動員被害者の証言は一人も取り上げられなかった。そのためネットワークとして日本政府に改善を求めて再三要請してきたが、一向に是正されないため、今回展示内容の改善を日本政府に勧告するよう、4月3日付でユネスコ世界遺産委員会に報告書を提出し直接訴えることとした。

 明治日本の産業革命遺産の主要施設において戦時中に朝鮮人・中国人・連合軍捕虜の強制労働が行われたことは動かし難い歴史的事実である。国際的にもILO(国際労働機関)専門家委員会が朝鮮人・中国人の強制労働について何度もILO29号(強制労働)条約違反を指摘してきた。

 しかし、日本政府は登録直後から強制労働の歴史を否定し「犠牲者の記憶をとどめない」展示をしようとしていた。2017年、ユネスコへの報告の段階で「働かせた(forced to work)」の文言を「(産業を)支えていた(support)」と言い換え、中国人・連合軍捕虜の強制労働には一言も触れなかった。

 こうした政府方針を主導したのが一般社団法人産業遺産国民会議の加藤康子専務理事(世界遺産登録当時内閣参与)だ。

 この国民会議のウェブサイトには「軍艦島の真実―朝鮮人徴用工の検証」のバナーのもとに元島民の「朝鮮人差別はなかった」「みんな一緒に仲良く暮らした」などセンターに展示されているものと全く同じ映像がアップされ、展示資料もその多くが重なっている。

 日本政府はこの団体に2016年から4年間で約5億5600万円の調査研究費を支出し、2020年度にはセンターの普及啓発広報等業務を約4億円で発注した。「国際公約」を捻(ね)じ曲げる展示のために歴史修正主義を公然と掲げる団体に多額の公費を投入した日本政府の責任は重大である。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)

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