2021年04月16日 1670号

【「デジタル社会の鍵」と政府は言うが…/マイナンバーの何が怖いのか/根底にある選別管理の思想】

 菅義偉首相がマイナンバーカードの普及に躍起になっている。「行政のデジタル化の鍵はマイナンバーカード。デジタル社会を実現するためには、カードが不可欠だ」と言うのである。しかし、その目的は本当に「行政の効率化」だけなのか。マイナンバー制度の危険な正体を明らかにしたい。

 マイナンバー制度に関する国費支出の累計が関係法成立後の過去9年で約8800億円に上ることが明らかになりました。「コストパフォーマンスが悪すぎるのでは」という野党議員の追及に、菅首相も「確かに悪すぎる」と認めました(3/31衆院内閣委員会)。

 とはいえ、マイナンバーカードの普及に前のめりな姿勢に変わりはりません。先日も、「マイナポイント」事業の参加に必要なマイナンバーカードの申請期限を1か月延長することにしました(4月末まで)。

 この事業は、マイナンバーカード保有者がキャッシュレス決済をした場合、最大5千円相当のポイントが還元されるというもの。決済事業者の側もポイント還元を独自に上乗せするなどのユーザー獲得競争をくり広げています。

 たしかに「お得」ではあります。しかし、「おいしい話」はまず疑ってみるべきではないでしょうか。マイナポイント事業に投入された税金は約2500億円。なぜ、そこまでの大盤振る舞いをするのか、と。

社会保障削減のため

 まずは、マイナンバー制度の基本を押さえておきましょう(参考文献 黒田充著『あれからどうなった? マイナンバーとマイナンバーカード』)。

 マイナンバー(正式には個人番号)とは、住民票を持つすべての人に付けられた12桁の番号です。税と社会保障の共通番号として、2015年10月に付番されました。マイナンバーカードは番号と本人の確認のためのカードです。

 マイナンバーの役割は個人情報の名寄せにあります。複数の機関に存在する特定の個人の情報が同一人物の情報であることを確認するために共通の識別番号をつける。そうすればオンライン化による情報結合が容易にできるというわけです。

 共通番号のルーツは、小泉政権が社会保障費の削減を目的に検討していた社会保障番号構想です。様々な個人情報を名寄せして「真に支援を必要としている者」と「そうでない者」を選別し、給付の重点化・効率化を図る――。この発想はマイナンバー制度にも引き継がれています。

 自民党が2016年にまとめた提言は「健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられる」のはおかしいと強調。「医療介護でもIT技術を活用すれば個人ごとに検診履歴等を把握」し、「健康管理にしっかり取り組んできた方」の自己負担を低く設定することができると述べています。

 裏を返せば努力が足りない者は、その報いとして自己負担が増える≠ニいうことです。病気を自己責任扱いすることで「自助」を促し、給付の削減を図るという、きわめて新自由主義的な発想なのです。

 提言にある「IT技術を活用すれば個人ごとに検診履歴等を把握」とは、プロファイリングのことでしょう。各種機関が保有する健康・医療・介護データをマイナンバーを使って名寄せし、個人の評価に用いるということです。

自発的服従へ誘導

 では、マイナポイント事業の本当の狙いは何でしょう。政府は「官民共同型キャッシュレス決済基盤の構築」を目指すとしています。「将来的な拡張性や互換性も担保したナショナルシステム」をつくるのだ、と。

 要するに、民間事業者が集める購入履歴や行動履歴と、行政機関が保有する個人情報を連結させ、巨大なデータベースをつくるということですね。これを企業はビジネスに使い、政府は国民の監視と統治に用いるというわけです。

 目標としているのは、中国の「社会信用システム」でしょう。政府や企業がビッグデータを使って、個人の「信用度」を測定し、点数を付けるという仕組みでです。もともとは金融機関向けの融資審査サービスでしたが、行政当局でも独自の信用スコアの算出と活用が始まっています。

 信用スコアには、年齢、職業、学歴、年収、資産などの個人情報、消費を含む行動履歴、行政処分や犯罪履歴などが反映されます。得点が高ければ様々な行政サービスを優先的に受けられるようになりますが、低ければ制限されたり排除されることがあります。これはまさに、日本政府が社会保障費の削減のためにやりたがっている仕組みじゃないですか。

 「スコアが高くなるように振る舞えばいい」と思われるかもしれませんが、加点減点の基準を定めているのは政府であり巨大企業です。スコアを追いかけることは、「従順な国民」「都合のいい消費者」に誘導されることにほかなりません。まさに自発的服従―。これが新たな全体主義を招くと言われるデジタル社会の恐ろしさなのです。

自己決定権が大切

 健康保険証としての利用や運転免許証との一体化など、政府はあの手この手でマイナンバーカードを持たせようとしています。将来的にはすべての預貯金口座にマイナンバーを紐づけることも見据えています。あらゆる個人情報を収集し、カネ儲けと支配のために使おうとしているのです。

 マイナンバーを使ったプロファイリングは国家や企業が個人を勝手にランク付けして選別するもので、基本的人権を侵害する行為です。プロファイリングをされない権利、すなわち個人情報の自己コントロール権を確立することが求められています。    (M)



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS