2021年04月23日 1671号

【読書室/地域における鉄道の復権〜持続可能な社会への展望/宮田和保・桜井徹・武田泉編著/緑風出版/3200円(税込3520円)/ローカル線問題から新自由主義批判】

 2016年11月、JR北海道は全営業キロの半分に当たる10路線13線区を維持困難と発表した。北海道を単独の会社とした1987年の国鉄分割民営化から予想されていた事態であり、中曽根政権が本格的に導入した新自由主義の帰結であることを論証することから本書は始まる。

 自由競争の名の下に公共サービスを解体し、弱肉強食状態に市民・労働者を放り出し低賃金と過労死に追い込むとともに、市民的権利も民主主義も否定する新自由主義に対し、社会全体を持続不可能な状況に追い込む元凶として徹底的な批判を加えている。

 国鉄分割民営化も本書は採用差別などの労働問題から安全問題、路線問題まで全面的に検証。JR旅客6社+貨物の体制を維持したまま民営化の「微修正」で事態を乗り切ろうとする政府の鉄道政策ではローカル線切り捨てを止めることはできないと警告する。

 どうすればいいのか。北海道内では上下分離による線路保有の再公有化、持株会社設立によるJR各社間の格差是正案などの再建策が論じられてきた。本書はこれらの再建策に論評を加えつつ、鉄道問題解決も持続可能な社会への抜本的改革も新自由主義脱却に鍵があるとして、対案を示す。

 「維持困難路線」公表に危機感を持った経済学者や鉄道専門家らが30回近い会合で議論を繰り返す中から本書は生まれた。評者も13人の共著者の1人として執筆に関わった。資本主義延命のための国連「SDGs」(持続可能な開発目標)に対する批判はやや物足りないが、本書が提示した解決策は、鉄道以外のあらゆる分野に応用できる。

  (北海道・地脇聖孝)
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