2021年04月30日 1672号

【菅内閣 放射能汚染水の海洋放出決定 県民・漁業者の意思を無視 命より低コスト≠選ぶ】

 4月13日菅内閣は、福島第一原発の処理汚染水の処分について、放射性物質の濃度を下げ海に流す方針を決めた。菅首相は「処分は廃炉を進めるのに避けては通れない課題だ」と強調した。実際に放出を開始するのは2年後とされる。

 汚染水に含まれるトリチウムの総量は約860兆ベクレル。政府と東京電力は、原発事故前に放出管理目標としていた年22兆ベクレルを上限にする方針で、今ある量だけでも放出し終わるまでに約40年かかる計算だ。

 処理汚染水を溜めているタンクは1千d級でその総量は4月時点で約125万d。2023年3月ごろまでには満水になるというのが、東電と政府の言い分だ。

汚染水放出は実害生む

 原子炉を冷やすために注入され続けている冷却水は放射性物質に触れて汚染される。それを多核種除去設備ALPSに通すことでトリチウム以外の放射性物質は除去できるとされていたが、実際は処理した水の約8割にストロンチウム90など多核種が国の基準を超えて残っていることが明らかになった。そのため、海に流す前にALPSで濃度を基準未満に下げるという。

 トリチウムだけは取り除けないが、主要各紙は「放射線 影響は軽微」(4/14毎日)「風評対策 効果見通せず」(4/14朝日)などと、放出されるトリチウム汚染水の安全性に問題はなく、風評被害だけが問題であるかのような論調で足並みをそろえている。

 しかし、トリチウム汚染水の被害は風評被害ではなく実害だ。トリチウムは原発の運転中にも発生する。各国では、それを一定濃度以下に薄めて垂れ流しているが、それに伴う健康被害が明らかになっている。

 原発が立ち並ぶカナダのヒューロン湖やオンタリオ湖周辺では、小児白血病、ダウン症、新生児死亡などの増加が報告されている。日本でも、トリチウムの放出量が多い玄海原発(佐賀県)や伊方原発(愛媛県)の周辺で白血病死亡率や循環器系疾患が増えている。玄海原発の西北沖にある壱岐市(壱岐島)で白血病死亡率が「原発稼働後、約6倍に増加」と地方紙で大きく取り上げられたのは記憶に新しい。

市民提案の検討を

 最近、格納容器の上ぶたが高濃度に汚染されていることが明らかになり、核燃料デブリの取り出し計画の見直しは必至となった。廃炉工程を理由にタンク増設の余地がないという理屈は通らない。もともとタンクの耐用年数は約20年とされ、「タンクの置き換えは考えないといけない」(更田原子力規制委員長)。だとしたら、置き換え用のタンクを市民サイドから提案されている石油備蓄用の大型タンク(10万d級)にすれば、貯蔵容量も増える。また、ロシアの原子力企業ロスラオ社はトリチウム分離技術を開発しており、カナダでは濃縮されたトリチウムの保管方法が実用化されているという(20年7/13 日経電子版)。

 ただ、それらの措置にはより多くの費用がかかる。菅は命より低コスト≠重視する選択をしたのだ。

 菅内閣の決定は、「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」という約束を反古(ほご)にするものだ。福島県漁連も全国漁連も海洋放出に反対し、福島県民の57%が反対している(20年2月世論調査)。県内の40以上の市町村議会が反対または慎重な決定を求める意見書を採択している。こうした地元住民の意向を無視した政府・東電の暴挙を許してはならない。

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