2021年04月30日 1672号

【菅政権の計画を維新が先取り/忍び寄るデジタル監視/自治体が巨大資本の実験場に】

 菅政権の看板政策である「デジタル改革」。それを先取りする社会実験が一部の地方自治体で行われている。いわゆる「スマートシティ」構想だ。AI(人工知能)やビッグデータを活用し、便利で快適な暮らしを実現するというが、本当のところはどうなのか。

街灯に監視カメラ

 大阪市と京都市のほぼ中間に位置する枚方市。大阪府内第5位の人口(約40万人)を擁する中核市です。現市長は大阪維新の会のメンバーで、2期6年目を迎えました。

 その枚方市でNEC製の「スマート街路灯」が稼働しています(市役所前公園に設置)。人流分析のネットワークカメラ「フィールドアナリスト」が搭載されており、撮影した映像を解析することで通行人の移動方向や、性別や年代などの推定データを瞬時に取得することができるそうです。

 取得したデータは枚方市とNECが共有し、施策に活用するとしています。個人情報の取り扱いが気になるところですが、市当局は「個人を特定するデータは保存されないので大丈夫」の一点張りです(本紙1670号4面参照)。

 このような社会実証実験が大阪府内の各地で実施・計画されています。パナソニックなど14社が参加した吹田市のスマートタウン構想などがそうです。街区内に高精度の監視カメラ網を構築。行動認知技術で不審者を検知したり、転倒検知をするほか、顔認証による決済サービス等を提供するとしています。

 これらは大阪府が策定したスマートシティ戦略の関連事業ですが、その背後には政府が掲げるスーパーシティ構想があります。大阪府は大阪市と共同で、先行モデルとなる自治体の公募に立候補しています。菅首相の肝いり政策を、政権の別動隊たる大阪維新の会が「支配地」で先取りしているという構図ですね。

家畜化される住民

 スーパーシティ構想とは、国家戦略特区制度を利用して、AIやビッグデータを駆使した「まるごと未来都市」をつくろうというものです。スマートシティは同種の概念で、今でも多くの事業が英語圏で一般的なこの名称を用いてます。

 違いですか。内閣府の担当者は「分野ごとの取り組みを徐々に広げていくのがスマートシティ。スーパーシティは最初から生活全般にまたがり、大胆な規制改革を実施する」と説明します。スーパーシティは日本政府の独自用語であり、スマートシティの強化版だと覚えてください。

 さて、政府は次のような住民サービスを提供できると宣伝しています。「行政サービスのIT化」「キャッシュレス決済」「自動走行」「ドローンでの自動配送」「オンライン(遠隔)診療」「防犯・安全のためのロボット監視」等々。

 便利なようですが、これらの芸当は企業などの実施主体が住民の個人情報や行動履歴を掌握していることの裏返しです。スマホの履歴や監視センサーの情報はビッグデータに集積され、AIによって解析されます。企業が個人の特性をプロファイリングし、行動を操る(誘導)することさえ可能になるのです。

 きつい言い方をすれば、スーパーシティの住民は利便性という餌を与えられた家畜です。だってそうでしょう。巨大企業の飯の種であるデータという「商品」を生産するために生きていることになるわけですから。監視資本主義にとっては、これが理想郷なんです。

 スーパーシティは究極の監視社会でもあります。推進派がお手本にあげる中国の杭州市(ネット通販最大手のアリババグループの本拠地です)には4千台を超えるAI監視カメラが設置されています。公安当局は顔認証で個人を識別し、該当者の情報を即座に参照することができます。

 杭州市のある高校では生徒を30秒ごとにスキャンする顔認証システムが導入されています。表情を記録し、「幸せ」や「怒り」などのパターン別に分類しているそうです。

「保護」より「儲け」

 大阪府のデジタル化戦略に話を戻すと、陣頭指揮をとる坪田知巳・最高情報統括責任者(日本IBMの出身)は、「儲かる仕組みづくり」が大切だと力説します。スマートシティ構想に参加する民間企業が儲かるように、行政は「規制緩和の扉」をこじ開けるべきだと言うのです。

 そこには個人情報の保護という発想はありません。大阪的な言い方をすると、“個人情報は使ってナンボのもの。細かい法規制は商売の邪魔でしかない”というわけです。

 坪田チームが開発したスマホの接触通知アプリ「大阪コロナ追跡システム」にしても、本当の狙いはキャッシュレス決済の普及にあります。ちなみに同システムにはポイントが付与される仕組みがあり、貯まると企業が提供する特典の抽選に参加できます。第1回の特典は吉本興業の観劇券でした。府民をとことんなめてますよね。

地域が最前線に

 いま世界各地で、政府や巨大IT企業によるデータ独占に反対する運動が広がり始めています。

 カナダのトロント市が進めていたスマートシティ事業は、「私たちはグーグルの実験用マウスではない」という反対運動の高まりを受け、中止されました。事業主体だったグーグルの関連企業が撤退したのです。データの大規模収集が難しくなり、儲からないと判断したのでしょう。

 米国のサンフランシスコ市議会でも、公共機関による顔認証システムの導入を禁じる条例が制定されました(2019年5月)。これもまた地域住民の問題提起によるものでした。

 デジタル監視に反対する運動の根底には「プライバシーを奪われることは人間としての尊厳を奪われることだ」という考えがあります。そう、個人情報は私たち自身のものです。無限定に収集・管理・利用・提供されてはなりません。

 菅政権の動きはこれと真逆ですね。デジタル監視法案の成立を急ぐと同時に、地方自治体での実績づくりを維新の協力の下に進めています。まさに地域が超監視社会=デジタル全体主義との闘いの最前線になっているのです。   (M)



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