2021年05月07・14日 1673号

【横田基地訴訟原告名簿、センター試験受験者名簿……/国が企業に情報提供―自治体にも義務化】

 デジタル監視法案の参院審議で、防衛省の持つ「横田基地夜間差止請求訴訟」の原告名簿や国立大学が収集している学生情報を民間企業に利用させようとしていることが明らかにされた。明かな目的外使用なのだが、現行法でも違法ではないという。データ利活用をさらに促進させようとするデジタル監視法案で、個人情報保護はますます危うくなる。

データ提供の実態

 行政の個人情報がなぜ企業に提供できるのか。行政機関等(独立行政法人等を含む)を縛る現行の個人情報保護法には「非識別加工情報」を活用するルールが決められている。行政機関等は定期的に個人情報ファイルの利用提案を募集することになっている。提案採否の基準は「新たな産業の創出または活力ある経済社会若しくは豊かな国民生活の実現に資する」事業とするが、「公益性」とは無関係に新たな市場創出を後押しするものでしかない。

 この規定により防衛省が今年1月から3月にかけて提案を募集した40種類の提供ファイルのうちに15種類の「横田基地夜間飛行差止請求事件ファイル」があった。「原告一覧」もその一つだ。応募企業はなかったとはいえ、いったいどんなつもりでこのファイルを企業に利用させようとしたのか。全く理解できない。

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 防衛省以外ではどうか。国の行政機関が20年度に提供対象とした個人情報ファイルは20機関290件にのぼる。警察庁は運転免許情報である「運転者管理ファイル」など18種、厚生労働省は学歴から家族構成など360項目のデータをまとめた「求職台帳」など28種。

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 独立行政法人等では、たとえば大学入試センターが「センター試験志願者ファイル」、住宅金融支援機構が「個人融資マスターデータ」を対象としている。38機関あわせて365件のファイルが提示されている。金融機関の顧客データは融資判断に利用されるだけに詳細な身辺情報を含んでいる。

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 国立大学法人等では大学によって提供ファイルは大きく異なるが、86大学・機構で合計1277ファイルにのぼる。最多の151件のファイルをあげた筑波大学は2011年度からの入学・卒業学生の成績や連絡先などのファイルをリストにあげているが、マイナンバーそのもののファイルまで含めているのは驚きだ。他の大学でも授業料免除申請者や健康診断、図書館利用履歴など、無配慮にデータファイルがリストにあがる。個人情報は守られるべき人権であることを全く理解していないと思わざるを得ない。

 デジタル関連法案では、行政機関に自治体を含めている。つまり、自治体も「匿名加工情報」(民間と呼称統一)の提供をせまられることになる。政府は「都道府県と政令市は義務」としているが、すべての自治体を念頭においていることは明らかだ。

自治体情報に狙い

 基礎自治体のもつ個人情報は、住民の生活そのものといってよい。誕生から死亡まで、就学記録から所得、医療等の記録が収集されている。自治体ごとに作成されているこの基本的なデータベースを標準化し、共有クラウドで管理できるよう法案化した。すべての住民情報を含むビッグデータができ上がることになる。企業の持つネットショップの履歴情報は行政の住民情報と照合できれば、一層その価値を増すということだ。

 政府は「個人の権利利益を守ること」がデジタル化の目的だと強調し、個人情報の保護はその手段に過ぎないと公言している。保護抜きの「個人の権利利益」とは、要するに、おせっかいな「おすすめ商品」宣伝をありがたく受け取れということなのだ。

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