2021年05月07・14日 1673号

【コラム見・聞・感/電通「トリチウムゆるキャラ」 に見る原子力ムラの復活】

 復興庁が公開即削除に追い込まれた「トリチウムゆるキャラ」。危険な放射性物質をゆるキャラに仕立て、海を泳がせるというセンス、無神経さには呆れるほかないが、3・11前まではこれが原子力ムラの「日常」だった。

 1993年、動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現在の日本原子力研究開発機構)が核燃料サイクルへの「国民理解」を進めるために登場させた「プルト君」にそっくりだ。当時もチェルノブイリ原発事故の直後で市民の原子力不信が高まっていた時期だった。市民、反対派を小馬鹿にした図柄、「原子力に反対する者がどんな目に遭うかわからせてやる」とばかりに反対派が静かにしていてもあえて挑発してくる傲慢さ。昔の悪しき体質の復活だ。

 このゆるキャラのデザインを請け負ったのは「株式会社自民党広報部」たる電通。復興庁は企画競争契約方式で発注したと説明するが、これは業者からの企画提案を審査員が「採点」して発注先を決めるもので、厳密には競争ではなく随意契約の一種だ。採点基準の操作や審査員の思惑一つでお手盛り発注もできる。

 3億700万円もの巨額で発注しているのに、実際にゆるキャラに使われたのはわずか数百万円。3億円以上は福島県産品の宣伝など「復興」「風評対策」に使われたとみられるが、その使途は不明だ。

 2015年、政府は復興資金の財源捻出と称して復興特別所得税を創設。全国民に対し2・1%もの増税を今も続ける。その増税の使い道がこれでは、公開即削除となるのも当然だ。

 3・11前まで「日本の原発からは毎日、放射性物質が漏れている」などと反対派が言おうものなら、直ちに推進派から嘘つき呼ばわりされた。今、推進派は「韓国の原発からもトリチウムは排出しているのだから処理水も流せ流せ」の大合唱だ。180度態度を変え、3・11前に否定していたことを白昼堂々と主張する。それも「隣の人は2回立ち小便をしているのだから自分も1回くらいしてもかまわないのだ」と臆面もなく主張する連中を同じ人間とすら思いたくない。

 原子力自体の危険性やコストなどの問題はもちろん、「原子力に携わる人びとや組織を信用できるか」もこの10年で問われてきた。私の採点結果は0点だ。やはりこんな嘘つきどもに日本の運命は委ねられない。  (水樹平和)

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