2021年05月07・14日 1673号

【読書室/世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター 共同代表からのメッセージ/アリシア・ガーザ著 明石書店 2200円(税込2420円)/分断された時どう団結するか】

 警官による黒人ジョージ・フロイド殺害現場の動画は衝撃を与えた。その抗議運動がブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を軽んじるな)を合言葉に2020年夏、世界各地で起こった。BLM運動が始まったのは2013年。黒人少年を射殺した自警団の白人が無罪となったことに抗議する#BlackLivesMatterのハッシュタグが拡散され、人種差別反対運動が全米に広がった。

 本書の著者アリシア・ガーザは、BLM運動の共同代表の一人である。本書は、生い立ちから始まり、社会変革の運動に参加していく経過、運動を通じて形成された著者の思想を縦横に語るものだ。米国社会の実相の照射、一人の活動家の成長記録、ジェンダー認識の掘り下げなど、さまざまな観点を提供する。

 SNSでの彼女の発信がBLM運動の契機になったのだが、著者は「ハッシュタグから運動は始まらない。組織化(オルガナイジング)こそが運動を持続させる」と強調する。そこには「変革とは、何百万という人々が何世代にもわたって継続的に関わり、献身的に打ち込んでいるから起きるもの」との確信がある。

 本書は、戸別訪問から集会の作り方、他団体との議論の進め方など―社会運動の組織化に必要な方法と考え方を著者自身の経験から示している。貫かれるテーマは、原題でもある『分断された時、私たちはどう団結するか』であり、「組織化の目的は力(パワー)を築き上げること」だ。ここに米国社会の知性とBLM運動の底流を読み取れる。

 社会を変える一歩を踏み出したい人、すでに運動にかかわる人、ともに薦めたい一冊である。  (I)
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