2021年05月21日 1674号

【日米首脳共同声明/中国を挑発し包囲網強化 南西諸島軍事化は許さない】

 米・バイデン大統領就任後初の日米首脳会談で、同大統領と菅義偉(すがよしひで)首相は共同声明を発表した。同声明は、日米軍事同盟による中国封じ込強化が柱で、アジア太平洋地域の軍事的緊張を煽(あお)るものだ。

「台湾問題」持ち出し挑発

 4月16日、菅義偉首相と米・バイデン大統領は日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」(以下、「声明」)を発表した。

 「声明」の特徴は、台湾問題をあえて持ち出していることだ。「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題(注1)の平和的解決を促す」と明記した。日米首脳共同声明で台湾問題≠ノ触れるのは、1969年の佐藤・ニクソン共同声明以来52年ぶりだ。

 中国は「声明」を「内政干渉」と非難。また「声明」2日前の14日には、台湾の防空識別圏に戦闘機や各爆撃機を侵入させる「戦闘訓練」を実施しており「人民解放軍の台湾海峡での演習は、この地域の現状に対応し国家主権を守るために必要な行動だ。外部勢力の干渉と台湾の独立主義者による挑発への厳粛な対応である」としていた。

 「声明」ではあえて日米両政府が台湾問題を持ち出した。「平和的解決」というともっともらしく聞こえるが、中国政府の軍事挑発に対する政治的挑発であり、中国の海洋進出に対する対抗措置だ。

対中軍事包囲網の強化

 「声明」は、「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」として日米安保体制を位置づける。

 2019年版外交青書は「『自由で開かれたインド太平洋』の実現のための日本の取組の三本柱」として、次の3つを挙げる。

 (1)法の支配、航行の自由、自由貿易などの普及・定着

 (2)国際スタンダードにのっとった「質の高いインフラ」整備等を通じた連結性の強化などによる経済的繁栄の追求

 (3)海上法執行能力の向上支援、防災、不拡散などを含む平和と安定のための取組

 対中国を想定すれば(1)は東沙諸島、南沙諸島の軍事基地化を進める中国の海洋進出への警鐘だ。

 (3)の「海上法執行能力の向上支援」は(1)を目的とした軍事協力だ。中国との領有権問題を有する周辺国への対抗兵器提供を指す。米国は台湾への兵器提供を現に行ってきたし、日本も安倍前政権の下で「武器輸出3原則」の禁を破って戦闘艦などを東南アジア各国に移転している。

 また、中国の一帯一路政策に代表されるインド洋沿岸諸国へのインフラ整備は環境基準への適合性など、質が低いとされる。(2)はその質の低さにつけ込んだ対抗措置だ。

 そして、(1)(3)に関する最も強硬な手段が日米・オーストラリア・インドの「Quad」(クアッド)による軍事包囲網だ。「Quad」4か国は海賊対処・対テロ対策など「法の支配、航行の自由」を口実に、度々軍事演習を実施している。

欧州諸国もインド洋へ

 加えて、欧州諸国も「Quad」と足並みをそろえ、アジアへの海軍派遣を計画している。英国は最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を主力とした空母打撃群を5月から数か月にわたってインド洋に派遣。海上自衛隊との共同訓練も実施する。ドイツ、オランダもフリゲート艦(防空・対戦能力を持つ戦闘艦)をインド洋に派遣する。フランスは、強襲揚陸艦などをインド洋に派遣し、「Quad」プラス仏の5か国共同訓練を4月に展開した。続いて5月に日本で日米仏3か国合同訓練を実施する。

 中国はフィリピン、ベトナム、インドネシアなどと領有権問題を抱える南シナ海で軍事力を背景に岩礁を埋め立て「実効支配」しようとしてきた。軍事基地化の狙いも持っている。現在のインド洋は、中国海軍の進出を南シナ海以北に封じ込めるためのグローバル資本主義諸国による軍事行動の舞台となっている。

軍事緊張あおる菅政権

 では、「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」の拠点はなにか。

 声明は日中間で領有権問題を抱える尖閣諸島(中国名、釣魚群島)が日米安保条約第5条の対象であることを明記した上で「日米両国は、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である、辺野古における普天間飛行場代替施設の建設、馬毛島(まげしま)における空母積載機着陸訓練施設、米海兵隊部隊の沖縄からグアムへの移転を含む、在日米軍再編に関する現行の取り決めを実施することに引き続きコミットしている」と述べた。

 このくだりは、明らかに菅政権がバイデン政権に求めたものだ。

 米国は、日韓、日中の領有権問題については当事者間の問題であり基本的には静観の姿勢を続けてきた。安保条約第5条(注2)の対象と改めて宣言することは、米国が集団的自衛権を発動する対象であることを意味する。日本の「国益」である尖閣諸島防衛に米国が関与するならば、日本も自ら自衛隊による離島防衛を強化するのは当然と、自衛隊南西シフトを合理化するのだろう。ひいては「Quad」による「自由で開かれたインド太平洋」政策は直接的に「国益」に合致する、「日本も当事者なのだ」と。

 だが、これは隠れ蓑だ。

 辺野古新基地建設は、完成後の自衛隊・米軍共同使用から米海兵隊グアム移転後には自衛隊の専用施設となる密約の存在が明らかになっている。馬毛島訓練施設提供も、自衛隊基地整備計画として進められている。与那国島、石垣島、宮古島、辺野古を含む沖縄島、奄美大島と連なる南西諸島への自衛隊配備は、米軍再編整備にあわせた自衛隊の出撃基地化を狙うものだ。

 菅政権は安倍前政権を引き継いでいる。中国の海洋進出を契機に軍事的緊張を煽り、その対処を口実に「Quad」などグローバル資本のための軍事同盟の一員として戦争ができる国≠ヨの変貌を目指している。



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注)両岸問題

 日本では「台湾問題」と表記するのが一般的。中華人民共和国(中国)と中華民国(台湾)間の国家としての正統性と台湾地域の領有権を巡る争いを指す。両当事者は「両岸問題」と呼ぶ。

 中国は自らを「唯一の正統な政府」としており、台湾問題は内戦の帰結としての内政問題で、台湾の独立は断固として認めないとする。

注2)日米安保条約第5条

 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。


中国の「一帯一路」とQuadの「自由で開かれたインド太平洋戦略地域」

 一帯一路の陸路のうちメインのルートは、新疆ウイグル自治区から石油埋蔵量世界第11位のカザフスタンを通過し欧州へと至る。海路は南シナ海・インド洋を通り紅海・地中海をつなぐ。紅海入り口にはジブチ共和国があり、日・米・仏・伊・中国の軍事基地がひしめきあう。
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