2021年05月21日 1674号

【商品にされる数値化された「別の私」/個人情報「活用」法化でプロファイリングに便宜】

 菅政権が強引に進めるデジタル化政策。5月12日に成立した関連6法は、民主主義を破壊する極めて危険なものだ。その一つが各省庁の上位に位置するデジタル庁(長は首相)。その権限は自治体にまで及ぶ。首相直属の内閣情報調査室と連携し、権力維持のための個人監視が強化される。「統治機構の改編」といわれる理由だ。

 もう一つが、個人情報保護を骨抜きにし、さらに利活用を促す措置だ。個人情報の自己決定権がないがしろにされるところに民主主義の強化はありえない。

数値化は序列化

 個人の権利がいかに侵害されているか。その事例の一つが2019年に発覚した「リクナビ事件」とその後だ。就活情報サイト「リクナビ」の運営会社リクルートキャリアは就活生の「内定辞退率」を予測し、契約企業に売っていた。就活生は、自分の知らないところで「心の内」を数値化がされる恐怖を覚えたに違いない。

 いったいどんな個人データが予測に使われたのか(図1)。報じられている限りでは、まず、採用募集企業が保有する(1)企業アンケート(19年版)または応募学生の大学・学部・学科名等のデータ(2)前年度の選考や内定時の承諾者・辞退者の情報(ID、大学、企業独自管理情報、閲覧履歴)のデータ。それにリクルートキャリアが収集する(3)「リクナビ」に会員登録された個人データと(4)その会員がリクルート関連の就職情報サイトで閲覧した業界毎の履歴データ。これだけだ。



 (2)にある「企業独自管理情報」とはどんなものなのか不明だが、それにしても、(1)〜(4)の情報だけで応募学生の採否に影響を与える数値がまことしやかに算出されていたのだ。

 閲覧情報から性格や思想傾向など人物像を描くプロファイリングはいまやビッグデータ活用術の中心と言ってよい。情報の所有者である市民は、ウェブサイトの閲覧記録が蓄積・分析され、数値で序列化された「別の自分」がいることを知らない。これで、「個人の権利利益」が保護されているとは到底考えられない。

利活用促進へ改悪

 この「内定辞退率」の販売は個人情報保護法に抵触するとして、個人情報保護委員会はリクルートとリクルートキャリアに「勧告」を出し、トヨタ自動車をはじめ利用した35社を「指導」した。何が問われたのか。個人の「心の中」を数値化したことではなかった。

 個人情報保護委員会が問題にしたのは、データの利活用に際し、本人同意が不十分のまま第三者に情報提供したことだった。つまり、「利用目的の通知、公表を適切に行うこと」や「業務委託先に対する必要かつ適切な監督を行うこと」が欠けていただけだったというのである。

 この事件後すぐ、20年に個人情報保護法が改定された(2年以内の施行に向け政令規則など準備中)。政府は第三者提供に関する本人同意取得を厳格化したと言うが、むしろ利活用しやすい仕組みを考えた。「個人関連情報」と「仮名加工情報」の創設だ。

 本来、個人情報として扱われるべき情報から、コンピュータに残る履歴記録である「クッキー」情報やIPアドレス、位置情報など(個人関連情報)を切り分けたり、他のデータファイルと照合すれば個人が特定できる情報(仮名加工情報)として別扱いし、プロファイリングの便宜をはかった。

 本人同意はどうなったか。たとえば、個人関連情報を取得する際にサイト上に例示されているような「通知」(図2)をすればよい。その通知の意味するところを理解するのは容易ではない。


利活用の目的をただせ

 民間企業を縛る個人情報保護法はすでに「個人情報活用法」と化している。今回、デジタル関連整備法の中に隠された3つの個人情報保護法を束ねた法は、この「個人情報活用法」に自治体を従わせるものだ。

 自治体が保有する住民の個人データはすでに多くの企業が利活用を狙っている。デジタルシステムを手がけるNECは「ご存知ですか? 企業が使える住民データ」とウェブサイトで活用例をあげている。住民基本台帳で家族構成を知り、固定資産税から土地や家の広さが分かり、個人住民税や自動車税のデータを合わせれば車の買い替え時期や車のタイプを絞り込むことができると宣伝する。

 自治体の住民情報は弱者に寄り添う施策のために使われるべきものだ。それでこそ、デジタル化が民主主義の強化に役立つといえる。
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