2021年05月21日 1674号

【デジタル監視と労務管理/テレワーク化で導入加速】

 「先端技術が専制主義でなく民主主義の基準で管理されるようにする」。バイデン米大統領は菅義偉首相との共同記者会見でこう述べた。中国との対決姿勢を鮮明にした発言だが、どうにも違和感をぬぐえない。

 なぜか。デジタル技術を駆使した国民監視は中国のような一党独裁国家の専売特許ではないからだ。米国や日本でも、社会実装が始まっている。

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 中国・杭州市のある中学校では、顔認証カメラを使った生徒管理の試験運用が行われている。監視カメラが捉えた生徒の表情や振る舞いから、生徒の状態を7項目に分類し、査定に用いるというもの(教員の査定にも使われる)。

 これとよく似た発想の労務管理システムの開発が日本で進んでいる。たとえば、NECとダイキン工業による「居眠りさせないオフィス」だ。パソコンなどに設置されたカメラが労働者のまぶたの動きを追跡。眠気におそわれ始めたと判断すると部屋のエアコンを操作して刺激を与え、目覚めを促すというもの。NECの顔認証技術が使われる。

 「働き方改革」や「テレワークの推進」を名目にした労務管理システムの実用化も進んでいる。NECは「パソコンのカメラで労働者の認証し、勤務の状況やパソコンの使用状況を合わせてグラフ化する」サービスを開始。パナソニックは「労働者が仕事に使うソフトをいつ、どの時間帯に使っているかを記録してグラフ化する」。同社は「労働者の顔色などからストレスをチェックする」サービスの提供も将来的には行いたいとしている

 新型コロナウイルスの感染拡大を機にテレワークを拡大した都内のIT関連企業「アイエンター」。同社の勤務時間管理システムには次のような仕組みがある。労働者が「着席」のボタンを押して仕事をしている間、パソコンの画面がランダムに撮影され、上司に送信される。いつ画面が撮影されるか、労働者には分からない。会社はその意図を「自宅で働く社員に一定の緊張感を持ってもらう効果がある」と宣伝する(4/24NHKニュース)。

 これはもう、監視の目を常に意識させることによる自発的服従装置以外の何ものでもない。英国の作家ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描き出した「ビッグブラザーがあなたを見ている」の世界だ。

 このように、管理する側の発想は中国も日本も変わらない。菅政権は利便性を前面に押し立てて「デジタル改革」を進めようとしているが、法律に裏付けられた民主的な規制がない社会では、デジタル技術は容易に支配者の監視ツールと化してしまう。

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