2021年05月21日 1674号

【医師・看護師に大量動員要請/コロナ五輪で医療が壊れる/オリンピック中止、待ったなしだ】

 新型コロナウイルス感染症の拡大で医療危機が深刻化する中、東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会が医療従事者に大量動員を要請していることが明らかになった。でたらめ極まる計画に「人びとの命より五輪優先か」と怒りの声が広がっている。

医療現場は悲鳴

 大会組織委から日本看護協会への要請は4月9日付で出されたもの。「新型コロナウイルス感染症等の感染拡大に伴い、看護職の確保が不十分な状況に至っております」として、全国から看護師約500人を集めるよう求めている。

 条件は1人あたり原則5日以上の参加。早朝、深夜も含め、1シフトあたり9時間程度としている。交通費や食事は「提供予定」とあるが、肝心の報酬については明確な規定がない。どうやら「タダ働き」を想定しているようなのだ。

 組織委は、熱中症患者や体調不良者などに医師約200人も募集しているのだが、こちらも無償ボランティアでの活動だ。謝礼等は支払われない。

 コロナ対応に追われる医療現場の実態を無視した要請に対し、抗議の動きが広がっている。日本医療労働組合連合会(医労連)は4月30日、「患者と看護師のいのちや健康を犠牲にしてまで開催に固執しなければならないのかと、強い憤りを感じる」として、派遣要請の見直しを求める書記長談話を発表した。

 愛知県医労連は「看護師の五輪派遣は困ります」のタグ付きでツイッター上のデモを開始。5日間で33万件以上ツイートされた。矢野彩子書記次長は「現場の感覚からすると、今は1人でも抜けたら大変。簡単に500人と言うけれど、今の状況がわかっていない。現場は怒っている」と話す(4/30朝日)。

 「医療は限界 五輪やめて!」「もうカンベン オリンピックむり!」。東京都立川市の立川相互病院は、こんな張り紙を窓に掲げ、五輪開催に抗議する意思を示した。同病院では新型コロナの治療のために一般診療が圧迫される状況が続いている。高橋雅哉院長は「各病棟ともギリギリの人員配置になっている。疲労のために退職者が出れば、将棋倒し的に医療崩壊につながりかねない」と窮状を訴える(5/6毎日)。

「可能と思う」と菅

 医療危機が特に深刻な大阪府では、入院できない患者が自宅で死亡するケースも相次いでいる。新型コロナウイルスの感染者のうち、病院に入院できた人や入院先が決まった人の割合を示す「入院率」。大阪府はこれがわずか10%(5/4現在)。10人に1人しか入院できていない状態なのだ。

 全国的にみても医療体制はパンクに近づいている。このような状態で医療従事者をオリンピック対応に引き抜くなんて正気の沙汰ではない。それなのに、菅義偉首相は組織委の暴挙に理解を示した。日本看護協会会長との面会後、「休んでいる人もたくさんいると聞いている。派遣は可能だと思っている」と言い放ったのだ(4/30)。

 休職中あるいは離職した看護師をあてにしているようだが、コロナ対応で肉体的・精神的に疲弊した末に現場を去る看護師が増えているのに、十分な待遇改善も行わず問題を放置してきたのは誰なのか。働く者をバカにするのもいい加減にしろ、と言いたい。

政権浮揚という妄想

 大半の人には「こんな時に五輪か」だが、菅首相にとっては「こんな時だから五輪を」だ。菅と親交がある(首相就任翌日に会食、5月3日にも面会)選挙プランナーの三浦博史は次のように解説する。

 「五輪・パラを成功させれば、国際社会においても、政治的にも大きなインパクトを残します。…大会を成功に導いた首相の顔は後世に残るものです。その勢いで衆院選を戦えば、与党が圧勝する可能性も高いですね」(1/17スポーツ報知)。

 あきれたことに、菅自身も「五輪成功で支持率回復。衆院選勝利で長期政権へ」という妄想にとりつかれている。政権浮揚の可能性はオリンピックしかないと思いつめているのだろう。

 バカも休み休み言え。安倍政権時代から始まった病床削減計画をコロナ禍でも強引に推し進め、医療ひっ迫にあえぐ病院にさらに病床を削減すようよう迫ってきたのは菅政権である。世間が五輪で忘れてくれると思ったら大きな間違いだ。

 「人々の命と暮らしを守るために 東京五輪の開催中止を求めます」。元日弁連会長の宇都宮健児弁護士が呼びかけたネット署名は大きな反響を呼び、開始から2日余りで25万筆を突破した(5/8午前現在)。

 コロナ対策を最優先するため、また医療従事者の負担を少しでも減らすためにも、東京五輪・パラリンピックはさっさと中止すべきである。     (M)

 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS