2021年05月28日 1675号

【新型コロナ/命より万博・デジタルの大阪維新/保健所体制縮小し、病床不足にはやってるふり=z

 緊急事態宣言延長と対象区域の拡大で新型コロナウイルス感染症対策の根本的転換が必要だ。大阪での医療ひっ迫は改善の兆しも見せない。経済優先の政治、非合理でちぐはぐな「対策」がその原因だ。「カネ」より命の政策を押し付けなければならない。

疫学調査要員を縮小

 新型コロナウイルス感染症は、大阪府では5月11日、死亡者が55人で過去最多、死亡者累計は16日で1958人に上り、東京都を抜いて全国最多となった。

 受入重症病床使用率(重症患者数/確保病床数)=146%と重症者が病院からあふれ出し、中等床・軽症病床も76・4%が埋まっている。宿泊施設や医療機関への入院調整中の患者を含め、自宅で療養せざるを得ない人は1万5400人だ(5/16)。「第4波」では自宅での死亡者は17人に(5/11)。うち2人は、感染判明後、保健所から療養先の連絡があった時にはすでに亡くなっていた。

 保健所を含む医療態勢の不足がこの事態を招いている。

 大阪市では保健所体制削減の実態が明らかになった。4月30日の時点で積極的疫学調査対象者828人への聞き取りが先送りされていた。取材したMBSによると、1月中旬に42人いた大阪市保健所の疫学調査担当職員は、年度変わりの人事異動で31人に減員。そのうち23人が新たに配置された職員だった。つまり、疫学調査の経験を積んできた職員は42人から8人に減っていた計算になる。

 松井一郎市長は5月13日の会見で初めて積極的疫学調査の先送りを認め「体制を拡充して、5月12日現在、翌日に持ち越しているのが45件です」と取り繕った。市長は「45人に減っている」といいたいのだろうが、まだまだ足りない≠ニいう認識を持つべきだ。だが松井市長は「そもそも大阪市のみならず、日本は長年公衆衛生環境が非常に良くなってきたので、感染症専門の行政職の採用が少なかった」「(行政職ではなく)看護師・保健師という資格を持った人の拡充をしている」と言い放った。市長は、その考えの浅はかさに気づいていない。

保健所縮小放置は失政

 確かに上下水道の整備、道路舗装、廃棄物の収集体制が整い、街は衛生的にはなった。1994年の地域保健法改定で、保健所は激減し、94年当時全国で847か所あった保健所は2020年には469か所に減っているのも事実だ。大阪市も大阪維新市政以前から24区各区にあった保健所が1か所に統合されていた。だからと言って、感染症対策の体制縮小放置が当然の政策とはならない。

 大阪都構想を看板政策とし、国際的な「都市間競争」に勝ち抜き、中国富裕層などアジア観光客の「集客都市」を目指すことを経済政策の目玉としてきたのは大阪維新だ。外国人観光客の日常的な大量入国は輸入感染症まん延のリスクも当然伴う。

 それだけではない。かつて「亡国病」と恐れられた結核対策は保健所が担ってきたが「先進国」の罹患率(ある期間の患者発生率)が人口10万人に対し10であるのに、日本は13・3であり「中まん延国」とされる(結核予防会)。大阪の罹患率は全国で一番高く、大阪市の高さがその主因だ。



 以上の2点だけをとっても、維新大阪市政の保健所体制縮小放置は失政だ。
 また「有資格者の拡充」を強調しているが、これも的外れだ。まん延拡大が止まらない状況では、感染症対策の入り口である疫学調査の目づまりをまず解消しなければならない。今必要なのは、人員の質≠ナはなく量≠セ。

 病床数不足も、「やってるふり」を続けてきた維新府・市政のツケだ。「第1波」が一区切りついた昨年5月時点で、ピーク時に必要となる大阪の新型コロナ病床数の想定は厚労省・大阪府とも3000床だった。だが、1年経った4月20日時点での確保数は2000床にとどまっている。昨年度から国は、新型コロナ病床1床につき1日あたり上限5万円〜40万円の確保料を補助するとしてきたが、看護師不足、一般診療・救急診療への影響など複数の要因で確保できないままだ。大阪では民間医療機関に「増やせ、増やせ」と迫るのみで、吉村洋文知事が自慢げにオープンさせた「専用病床」は30床にすぎない。

「カネ」はデジタルに

 大阪市の5月補正予算で新型コロナ病床を増やした医療機関に1床1000万円の補助を出す。総額は47億円。つまり470床分だ。

 一方で「キャッシュレス決済によるポイント還元を通じた需要喚起策」に99億円充てる。キャッシュレス決済としているのは大阪万博に向けたデジタル化による「スマートシティ構想」を進めるためで、新型コロナ便乗だ。

 新型コロナより万博・大規模開発の大阪維新。放置すれば府民・市民の犠牲者はまだまだ出る。
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