2021年06月04日 1676号

【自民改憲の歩を進める「改憲手続法」強行許すな】

闘いは参議院へ

 いわゆる国民投票法改定案が5月11日、衆議院から参議院に送られた。6月16日の国会会期末までに成立させると自民党と立憲民主党間で調整済みだという。

 だが、この法律は「日本国憲法の改正手続きに関する法律」―つまり改憲手続法だ。今回の改定は駅や商業施設に投票所を設置することなど公選法(16年改定)に合わせ、投票環境「向上」にかかる7項目としているが、法改定は改憲に歩を進めることを意味する。自衛隊を軍隊と定めたり、市民の権利停止を可能とする緊急事態条項の創設を狙うなど危険極まりない自民改憲など一歩たりとも先に進ませてはならない。

「最低投票率」放置

 自民改憲案のひどさと同様、改憲手続法ももともと欠陥だらけのひどいものだ。2007年、第1次安倍政権の時に与党提案で成立させたが、最低投票率の定めがないことや有料広告規制があいまいなことなど多くの不備・欠陥が指摘されていた。附則や附帯決議で整備が求められた項目は、今に至るまで放置されたままだ。

 今回も最低投票率は定めない。では、最低ラインをどう考えればよいか。仮に国政選挙の投票率を参考としてみよう。前回の衆院選(17年)は53・68%、参院選(19年)48・80%。たとえば50%を最低投票率としても4分の1の意見で賛否が決まる。それ以上に、半数の人が賛否の意思表示ができないような状態で憲法を変えていいわけがない。

 憲法第96条の改憲規定では「国会が発議し、国民の承認を得る」ことになっている。承認には「過半数の賛成が必要」だ。本来的には、国民の過半数が賛成の意志を示して、はじめて「承認」といえるはずだ。

不公平な有料広告

 投票を促すための広報をどうするのかがもう一つの重要な点だ。テレビ、ラジオでの「有料広告規制」については、今回、施行後3年をめどに法整備を講じる旨の附則が追加された。要するに先送りだ。しかも施行後とは、欠陥車が公道を走るのを認めるということと同じで、ありえない。

 有料広告について現行法では、賛成(反対)の投票を呼びかける勧誘CMと自分の賛成(反対)意見を表明する意見CMに分け、勧誘CMだけ期日前投票が始まる投票日14日前から禁止している。勧誘は「国民投票運動」であり規制対象だが、意見表明は運動には該当しないという理屈だ。だが、勧誘なのか意見なのか、その区別などつくものではない。

 その上、資金力の違いが広告の放送量と放送時間帯を左右する。最も見聞きされる時間帯は高額な広告料が必要だからだ。この広告枠を支配しているのが、電通を筆頭とした大手広告代理店であることは言うまでもない。インターネットの利用ルールに至っては、具体的な議論は全くされていない。こうした状況下で、公平な意見表明ができると考えるのは幻想にすぎない。

 一方、公選法による政見放送のように、無料でテレビ・ラジオ、新聞に意見広告が出せる制度がある。国民投票広報協議会が賛否同等に機会を保障することになっているが、組織の構成自体、具体的な議論はなされていない。

 日本弁護士連合会(日弁連)は5月19日、今回の改定案に反対する会長声明を出した。日弁連は05年からいくつもの意見書や会長声明を発しているが、その指摘事項を検討しないままでは「公平性や正当性に疑義を抱えた国民投票となる」と懸念を表明している。

 法案を取り下げ、一から出直すべきだ。

   *  *  *

 憲法は政権を縛るものだ。政権が必要とする改憲は市民が望むものとは異なる。逆に、市民が必要とする憲法改正であるならば、多くの市民の支持や運動が湧きおこっているはずだ。最低投票率など問題にならない圧倒的な意思表示がされる。

 たとえば中南米チリでは昨年、軍事独裁政権が制定した憲法にかわる新憲法の要否を問う国民投票が行われ、賛成票は8割を占めた。格差是正を求める大規模な市民の行動が背景にあった。来年再び国民投票が行われ、「議員数を男女同数とする」などの新憲法が制定される見込みだという。

 改めて言っておこう。戦争国家となるための改憲、その手続き法など一つでも早い段階で、つぶしてしまわなければならないのだ。

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