2021年06月04日 1676号

【コロナ禍口実に看護師の「日雇派遣」解禁 命を脅かし労働者保護を破壊 直接雇用と労働条件改善こそ】

 コロナ禍の看護師不足を口実にして、4月から看護師の「日雇派遣」が解禁された。医療面のリスクや低劣な処遇などの問題ばかりか、導入過程のでたらめさも明らかになっている。

派遣業者に利益誘導

 日雇派遣は一部の業務を除いて原則禁止されている。コロナ禍での医療従事者の人手不足を解消するためとして、厚生労働省は政令を改定し、地方の医療機関や社会福祉施設などへの派遣を認めた。

 この議論が本格化したのは2018年。内閣府は同年5月に「規制改革ホットライン」で「看護師の短期派遣」に関する要望を受け付けた。要望を出したのは、18年7月に設立されたNPO法人「日本派遣看護師協会(以下「協会」)である。組織設立2か月前の段階で提案している。さらに「協会」は定款の所在地には存在せず、公告が義務付けられている貸借対照表すら公表していなかった。

 そのホームページには協力会社として「スーパーナース」が記載されているが、同社は看護師の派遣業務を担っており、滝口進代表取締役は13年から16年まで規制改革会議の専門委員を務めていた。「協会」の実態は看護師派遣会社「スーパーナース」であった。

 つまり、規制改革のメンバーだった人物が代表を務める派遣会社が内閣府に看護師の日雇派遣を「お願い」し、実現したというのが経緯だ。

 これは政府による特定の事業者に対する利益誘導に他ならない。政府は野党の情報開示請求に対し、規制改革会議の日雇派遣に関するメモも議事概要も黒塗りで対応している。

 看護師の日雇派遣は、働く労働者と医療・介護サービスの事業所、患者や高齢者・障害者など利用者の生命や健康に密接にかかわる重大問題だ。一部の人材ビジネス業者の利益追求により、実体のないNPO法人の偽装によって政策決定がなされたことは決して許されるものではなく、徹底した糾明が不可欠である。

医療の質低下を招く

 看護師の日雇派遣について、介護施設などで働く看護師の実態調査に取り組む小林美亜静岡大学教授はNHKラジオ(3/4)で次のように指摘している。

 「(日雇派遣は)医療の質を低下させてしまう可能性もあると考えています。介護施設では、利用者さんのお薬の管理も看護師の重要な仕事になります。たとえば糖尿病を持つ患者Aさんが、食後に血糖値を下げる薬を処方されていたとします。しかし、Aさんは物忘れがあって薬の自己管理が難しいので、看護師がサポートする。その方の体調が悪くなって食事があまりとれていない場合、通常の量を内服すると低血糖発作を起こしてしまうんです。

 常勤の看護師さんがAさんの体調の悪さや食欲に関する変化を把握していたら、医師に連絡して血糖値を下げる薬の量を調整すると思うんです。その日だけ派遣された日雇派遣の看護師は、変化に気付けず、事前の指示どおりに飲ませて、結果的に低血糖発作を起こしてしまう。人の出入りが激しくなって期間も短くなると、こういったことが起きる可能性が高くなります」

 看護師の日雇派遣は、命と健康にかかわるのだ。

歴史に逆行は許さない

 日雇派遣は1999年の労働者派遣法改悪で導入された。雇用期間の短さによる雇用不安定に加えて、オンラインを通じて募集をする派遣会社(派遣元)の使用者責任が不明確になること、労災保険への不加入、意味不明の賃金天引き事例など、様々な法違反が横行した。とくに、派遣会社が3〜4割もの過大な派遣料金を取る一方、最低賃金水準の劣悪待遇をすることなど、労働者を搾取して営利を追求するだけの存在であることが社会的にも明らかになり、日雇派遣の弊害を批判する世論が大きく高まった。2009年の総選挙で派遣労働の抜本的見直しを掲げる野党が勝利し、政権交代。12年、労働者派遣法が改正され、労働者保護のために日雇派遣は原則禁止されるに至った。

 こうした経緯を覆し、労働法破壊に道を開く看護師の日雇派遣は禁止に戻し、直接雇用で抜本的な労働条件の改善こそ実現させなければならない。

 
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