2021年06月04日 1676号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/番外編13/福島県産食品は今/「風評」の実態を探る】

 3・11原発事故直後、放射性物質が基準を超えて検出され出荷停止が相次いだ福島県産食品。ところが、国や県は健康被害を決して認めず、「風評」被害だけを声高に主張してきた。福島県産食品の現状を探った。

米は大半が業務用に

 米の生産は47都道府県すべてで行われているが、東京産や大阪産の米をスーパーや米屋の店頭で見かけることはまずない。これにはちゃんと理由がある。

 外食産業用や弁当・総菜・コンビニなどの「中食」産業用には産地を都道府県で表示する義務がない。東京産や大阪産など、消費者が「おいしい」との印象を持ちにくい地域(以下筆者の造語で「負のブランド県」と呼ぶ)の米は「国産」とだけ表示され、外食や中食用の業務用米として出荷される。学校や病院の給食など、食べる人が自分で産地を選ぶことができない場所にも業務用米が使われる。

 他方、消費者に安全でおいしい印象を与えるのに成功した地域(「正のブランド県」と呼ぶ)の米は主食用米としてスーパーや米屋の店頭に並ぶ。新潟、秋田を筆頭に、米どころといわれる地域のものだ。

 食味が良い割には他県産と比べて安い福島県産米は事故前、主食用米として人気があった。福島は典型的な「正のブランド県」だったが、事故後は全体の3分の2が業務用に回るようになった。原発事故のイメージで「負のブランド県」に変わったのである。業務用米は主食用米と比べて価格が安く、県内農家の多くが収入を減らしている。

 その意味では確かに「風評」被害がまったくないわけではない。だが2020年には、兵庫県産や滋賀県産米を福島県産と偽装して出荷したコメ業者が摘発されている。筆者はお勧めはしないが、福島産だからこそあえて「食べて応援」したいという需要≠ノも支えられ、一時下落した福島県産米のブランド力は最近、兵庫県産や滋賀県産とは十分戦えるところまで回復してきている。最近は販売不振を風評のせいにするのが難しくなってきたためか、県内メディアの「風評報道」も明らかに減っている。

 事故10年目となる2020年4月、福島県産米の検査に大きな変更があった。事故後続けられてきた全量全袋検査が避難指示の対象となった時期がある12市町村産のみとなり、県内他地域産はサンプル(抽出)検査に移行したのだ。消費者の3分の2は全量検査の継続を希望していたとする調査結果もあったが、国・県は検査縮小を強行した。

 「欧州最後の独裁者」といわれるルカシェンコ大統領への抗議行動が続くベラルーシでさえ、チェルノブイリ事故から20年後も食品検査が続いていた。日本政府の対応は独裁国家以下だ。

自主検査の実態

 一方で、東日本の大半を含む26都道府県が現在も国が指定した品目以外の自主検査を続けていることがわかった。検査義務のない北海道や西日本各県も含まれており、検査されているのはコメ、野菜、果物、牛乳、牛肉、ミネラルウォーターなど摂取する機会が多いものばかりだ。

 福島県内を中心に事業者も努力を続ける。例えば、郡山市の乳製品メーカー・酪王乳業は事故後から厳しい自主検査を実施、検査結果も自社ホームページで公表してきた。国や福島県が安全・安心ばかり強調する中、多くの自治体や事業者が住民・消費者の不安に向き合い検査を続けてきた。事故後に市民が立ち上げた民間の放射能測定所も、地元のいわき市、福島市とともに、北海道から関西、広島まで地道に測定を続ける。

見えてきた危険性

 チェルノブイリ事故ではブルーベリーやキノコ類、乳製品など放射性物質が蓄積しやすい品目が長期間の測定で明らかにされた。福島でもこれらの他、コシアブラやあんぽ柿、マダラなどの危険性が明らかになった。10年の短期間で汚染が元に戻ることがない以上、市民を守るために得られたデータを蓄積し、活用することが今後の課題だ。

     (水樹平和)



 
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