2021年06月04日 1676号

【みるよむ(586)2021年5月22日配信 イラク平和テレビ局in Japan 部族の慣習法に反対しよう−重症者を病院に運んだ人に罰金!?−】

 イラクでは犯罪事件を解決するのに、法律によるのではなく前近代的な部族の慣習法による「解決」が横行している。2021年4月、サナテレビは部族法が市民生活にどのような影響を与えているか取材した。

 映像は、真夜中にひき逃げ事故に遭った男性が路上に倒れているところを映し出す。重傷を負い、救急車ですぐに病院に運ばなければならない状態だ。ところが、事故現場では「部族の慣習法による罰金を恐れて誰も病院に連れて行きません」。「病院に連れて行きましょう」と呼びかけても誰も助けない。

 これは不条理な小説ではない。現実だ。重症者に手をこまねいているのは、部族法によって被害者を病院に運んだ人が事故関係者とみなされ、何十億ディナール(10億ディナールは約7500万円)も請求される可能性を恐れているからだ。

 レポーターが語る。「もし泥棒が入った家で殺されたとしても、家の持ち主は泥棒が血を流したことに罰金を払わなければなりません」。法律が正当防衛で罪を免除しても、部族法ではこうなるのだ。医師でも、治療していた患者が亡くなると多くの場合親族から部族法で罰金を要求される。

 前近代的で反動的な部族法は女性に対する抑圧となっている。「バスラのある部族が別の部族から50人の女性を罰金≠ニして奪った」という信じがたい例が実際に起こっている。

分断に部族支配を利用

 これらは当然、イラクの憲法と法律で禁止されている。だが、暴力支配と法が実行されない中で、部族法が近代の人権法を上回る効力を持っているのである。

 2003年の占領以来、米軍は市民を分断するために宗教や部族を利用した支配を進めてきた。歴代の政権も同様だ。サナテレビは、すべての人が平等で安心した生活ができる社会をめざしこのような支配政策に反対しようと訴えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

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