2021年06月04日 1676号

【システム欠陥でも見切り発車/菅首相のワクチン大暴走/五輪開催、政権延命に必死】

 新型コロナウイルスワクチンの接種をめぐるトラブルが相次いでいる。自衛隊による大規模接種の予約システムには深刻な欠陥が発覚。問題を指摘したメディアに岸信夫防衛相が逆ギレする一幕もあった。混乱の原因は「ワクチン頼み」で政権延命を図る菅義偉首相の姿勢にある。

自衛隊システムに不備

 「自衛隊は我が国の最後の砦(とりで)。新型コロナ対策という国家の危機管理上、重要な課題に対して役割を十分果たしてもらいたい」。自衛隊をワクチン接種に投入するにあたり、菅首相はこう強調した(4/27)。

 映画『シン・ゴジラ』の主人公・矢口蘭堂(演・長谷川博己)のセリフを意識したと思われる発言だが、現実の自衛隊は早くも大失態をやらかした。接種予約システムのポンコツぶりがメディアの報道でバレてしまったのだ。

 接種を予約するには10桁の接種権番号や自身の生年月日などを専用サイトに入力する必要があるのだが、正しい番号でなくても手続きが完了してしまう。これでは番号を間違えて入力したりした人が会場に行っても、予約がないとみなされて接種できないなどのトラブルが起こりうる。

 「正しい情報を入力しても予約できない」という苦情も相次いでいる。やむなく適当な番号を入力したら「予約完了」となった事例もあるというからデタラメだ。さらには、生年月日の誤入力を修正しようとすると改めて入力できなくなるケースも…。

 信じられないほどお粗末な設計だ。システムの運営を担うのは、自衛隊から丸投げされたマーソ株式会社。経営顧問には菅首相の指南役の竹中平蔵が名を連ねている。利権のにおいがぷんぷんする。

逆ギレ兄弟の圧力

 予約サイトの欠陥を指摘された岸防衛相は、あろうことか、問題を報じたメディアに「厳重抗議」した。検証取材の一環として架空予約(すぐに取り消し)したことが、「貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」だと言うのである。

 岸の実兄の安倍晋三前首相も加勢し、「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」とツイートした(「朝日」「毎日」だけを批判し、同様の報道をした「日経」は無視しているところが安倍らしい)。

 冗談ではない。公共政策を監視しチェックするのはジャーナリズムの重要な仕事である。問題点を見つければ指摘するのが当然だ。「この非常時に政府が困る報道をするな」と言わんばかりの言動は大日本帝国のそれである。

 さて、時事通信の5月18日付記事によれば、防衛省はシステム上の欠陥を事前に把握しておきながら、5月24日に接種開始というスケジュールを優先し、改修を見送っていたという。見切り発車の背景には菅首相のプレッシャーがあった。

 ワクチン接種への自衛隊投入は「首相官邸の鶴の一声」(防衛省幹部)で動き始めたという。主導したのは、危機管理を担う杉田和博官房副長官。「7月末までに高齢者へのワクチン接種完了」という首相の無理難題を達成するための窮余の一策だった。

 政府は地方自治体にも圧力をかけている。政府の発表では93%の市区町村が7月末までに完了の見込みとしているが、この数字は「総務省の役人らが自らの立場をちらつかせ、自治体になりふり構わず電話攻勢をかけ、接種完了の前倒しを求めた結果」(5/18沖縄タイムス社説)にすぎない。

 菅首相が7月末までに接種完了の体裁を取り繕うとしているのは、東京オリンピックの開催を正当化するためである。「五輪成功→その勢いで支持率回復→衆院選勝利で長期政権へ」という妄想に今なお取りつかれているということだ。

安全性は二の次

 「何と言われようが、ワクチンだけで突き進む」(5/24読売)と公言する菅首相。「政権延命の思惑はともかく、ワクチンを早く打てるのはいいことだ」という意見も多いだろう。だが、コロナ対策がワクチン一辺倒になるのは危険である。

 ワクチン接種による集団免疫の獲得には数年〜5年かかるというのが多くの専門家の見解だ。それに副反応の問題がつきまとう。基礎疾患がある人や高齢者は特に、新型コロナよりも高いリスクにさらされてしまう恐れがあるのだ。

 菅政権はワクチン接種に突っ走る一方で、大規模な社会的検査、感染者隔離・保護という基本的な感染防止対策はないがしろにしている。「医療崩壊」の危機にも十分な対策をとっていない。菅首相の頭の中にあるのは、五輪を行い、経済を回し、支持率を回復させることだけだと言ってよい。人びとの健康や命が第一ではないのである。 (M)

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