2021年06月11日 1677号

【それでも五輪を行うという面々/カネの亡者と権力亡者のコラボ/命と健康が大事、即中止せよ】

 懐かしの特撮ヒーロー「ダイヤモンド・アイ」には、外道照身霊破光線という超能力があった。この光線を人間に化けた敵魔人に浴びせ、正体を暴いていた。この秘術、現実の世界では必要ないかもしない。誰が外道かは、東京五輪・パラリンピックをめぐる言動をみればすぐにわかるからだ。

世界中が疑問視

 米国務省は5月24日、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、日本への渡航禁止・退避勧告を出した。米国疾病予防監理センター(CDC)の最新知見を受けての措置である。CDCは「ワクチン接種を完了した旅行者でも変異株に感染し、拡散するリスクがあるかもしれず、日本へのすべての旅行を避けるべきだ」と述べている。東京五輪への言及はないが、事実上のダメ出しと見ていい。

 また、世界的に著名な米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』は、東京大会のコロナ対策を「科学的証拠に基づいていない」と批判する論評を掲載した(5/25電子版)。論評は「選手を含む参加者が大会中に感染し、200か国・地域以上に帰国するリスクを引き起こす可能性がある」と警告。「最も安全な選択肢は中止」と指摘した。

 今や世界が恐れるコロナ感染地帯となった日本。感染症の専門家や医療従事者はこぞって五輪開催を疑問視し、中止または再延期を求める世論は8割を超えた(5/17朝日)。現実問題、医療資源を五輪に割く余裕はない。感染対策に960億円もかけて開催するぐらいなら、中止してコロナ禍にあえぐ人びとへの支援に費用を回すべきだ。

 それなのに、予定どおりの開催に固執する人でなしが大勢いる。連中の言い分をざっと見ていこう。

カネがすべてのIOC

 まずは国際オリンピック委員会(IOC)の面々から。“ぼったくり男爵”ことトーマス・バッハ会長や、「緊急事態宣言下でも開催する」と明言したジョン・コーツ副会長に続き、最古参委員のディック・パウンド元副会長が耳を疑う言葉を言い放った。

 いわく「五輪は絶対に開催する。それが私たちIOCの仕事だ。私の知る限り、日本政府は開催を支持しているが、仮に菅首相が『中止』を求めたとしても、それはあくまでも個人的な意見に過ぎない。大会は開催される」(週刊文春6月3日号)。

 パウンド委員は大会の放送を統括するオリンピック放送機構(OBC)の会長でもある。だから、次のような本音が出てくる。「率直に言って、世界の99・5%はテレビや電子プラットフォームで楽しむのだから。観客がいるかどうかは重要ではない」(同)

 IOCは収入の7割をテレビ放映権料(東京大会で約1600億円とされる)から得ている。これさえ確保できれば、コロナ感染が広がろうが知ったことではないというわけだ。

 日本の五輪組織委員会も「感染防止よりもカネ」の原理で動いている。山梨県の長崎幸太郎知事が聖火リレーにおけるスポンサー企業の人集め行為(グッズ配布など)に苦言を呈したところ、組織委から抗議の電話がかかってきた。

 「聖火リレーはパートナー企業の協賛金があって成り立っている。ご理解いただきたい」(布村幸彦副事務総長)。この一件は報道されて炎上し、橋本聖子組織委会長が知事に謝罪する事態に発展した。

ネトウヨが頼り?

 右派独特の論理で断固開催を唱える者もいる。たとえば、「明治天皇の玄孫」が売りの竹田恒泰(政治評論家)だ。竹田は「やめると“コロナに負けた日本”という烙印を押される。中国は何が何でも来年やるので“打ち勝った中国”となる」と訴えた(5/24)。

 対中国をアピールすれば、ネトウヨを味方にできると思っているのだろう。ちなみに竹田の父親は、東京五輪の招致をめぐる贈収賄疑惑で日本オリンピック委員会の会長を辞任・逃亡した竹田恒和である。

政権維持が最優先

 最後は、やはり菅政権の面々に登場願おう。

 五輪開催について「コロナ禍で分断された人びとの間に絆を取り戻す大きな意義がある」(5/11)と語った丸川珠代・五輪担当相。精神論を振りかざす彼女が、前述の米医学誌の指摘に「明確な事実誤認や誤解に基づく」と反論しても、説得力は皆無である。

 平井卓也デジタル改革担当相は「パンデミック下でのオリンピック開催というモデルを日本が初めてつくるということになる」と力説した(5/23)。ちょっと待て。パンデミック下で五輪を開く必要は全くない。一部の人は「さすがはカミカゼ特攻隊の国」と言ってくれるかもしれないが、それはたぶん皮肉である。

 そして菅義偉首相。真打にしては印象に残る発言が実はない。どのような質問をされても「安全・安心の大会を実現することは可能だ」とくり返すのみ。こんなコミュニケーション拒絶男が、この国では首相になれてしまうのだ。

 報道によると、菅首相は「大会の盛り上げには観客が必要」と、有観客での開催に強いこだわりを持っているという。「五輪で世の中の空気を変え衆院選勝利、長期政権へ」という妄想にふけっているようなのだ。

 ある現職閣僚は「結局、菅さんは純粋にアスリートのために五輪をやりたいというより、『自分がいかに政権を続けるか』しか考えていない」(週刊文春5月27日号)と打ち明ける。この権力亡者が、五輪利権に群がるカネの亡者と結託し、東京五輪という暴走列車を走らせているのである。

   *  *  *

 米パシフィック大学のジュールズ・ボイコフ教授は、「祝賀資本主義」という分析概念を用いて現代オリンピックを批判している。五輪などの巨大イベントに乗じ、公共部門(国家)の助成によって、民間企業における資本の蓄積が加速する原理である。

 東京五輪はその典型例だ。カネ儲けイベントのために、人びとの命や健康を危険にさらすわけにはいかない。政府は今すぐ開催中止を決断すべきである。 (M)



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