2021年06月18日 1678号

【コロナ危機下に医療破壊 病床削減 医療負担2倍化法が成立/市民の命を脅かす改悪を強行】

 新型コロナ感染症の拡大で医療崩壊が起きている。そんな中で、菅政権による医療破壊が相次いでいる。

 病床を削減し医師に超長時間労働を強いる医療法改悪案が5月21日成立した。給付金を出してまで病床削減を進める。しかもその財源は消費税だ。「消費税は福祉の向上のため」と言っておきながら、医療後退の促進に使おうというのだから、二重三重の詐欺行為だ。

 今国会では、さらに後期高齢者(75歳以上)の医療費窓口負担を2倍に増やす健康保険法の改悪案も6月4日、成立させてしまった。

 誰が考えても医療体制の拡充こそが求められる状況にもかかわらず、菅政権の政策は真逆だ。

窓口払い2倍化は深刻

 75歳以上の高齢者で窓口負担1割から2割に引き上げ対象となるのは、単身世帯で年収200万円以上、複数人世帯で年収320万円以上としており、約370万人が負担増となる。

 厚生労働省によれば、75歳以上の一人当たり平均窓口負担額は現行の1割で年間8・1万円。2割にすると3・4万円増の年間11・5万円となる。この内訳をみると、入院で年間3・5万円が3・9万円に、外来で年間4・6万円が7・6万円にそれぞれ増える。

 これを見ると外来での負担が大きく増すことが分かる。75歳以上の人のほとんどが外来受診者だ。そのうち5割弱は毎月受診。窓口払い2倍化の影響は大きい。

 厚労省も、「およそ6割の者が高額療養費の限度額に該当せず、負担が2倍になる」(「後期高齢者窓口負担の在り方について」)と説明しているのだ。

 田村憲久厚労大臣は2月12日の衆院予算委員会で「(年収200万円世帯には)年12万円の余裕がある」と2倍化を正当化したが、年収200万円の人にとって年3・4万円の負担増が生活を直撃することは明らかだ。

 批判をかわすため政府は3年間の「配慮措置」を定めるとする。それでも年間平均2・6万円増になる。

 菅政権はなぜこれほどまでに高齢者を狙い撃ちにするのか。




(出所:「後期高齢者の患者負担割合のあり方について」)

受診抑制に直結

 全世代型社会保障改革検討会議の報告書は「現役世代の負担上昇を抑えることは待ったなしの課題である。…能力に応じた負担を」「後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていく」と書いている。つまり、若い世代への負担を減らして「支払い能力に応じた負担」で「公平性」を図ると言う。

 もっともらしくみえる理屈だが、問題だらけだ。

 まず、サービス利用に負担の公平性を持ち込むことは弱者をサービスから遠ざける。窓口負担増は、受診抑制に直結する。「支払い能力に応じた負担」は保険料の方に適用すべきであり、医療サービスは必要に応じ受けられることが原則だ。そもそも無償であるべきなのだ。

 現役世代の負担も減らない。厚労省の試算では、2倍化によって75歳以上に給付される医療費が2190億円減らすことができる。この内訳をみると、高齢者が支払う保険料220億円、事業主負担分340億円、現役世代本人負担分390億円、公費1140億円。現役世代一人あたりの抑制額は年800円(2025年度)でしかない。最も削減されるのは公費であり、結局、国の負担を減らすためのものなのだ。「『若い世代』はもちろん『現役世代』の負担増抑制は、そのためのダシに使われた」(4月20日衆院厚労委参考人陳述、二木立日本福祉大名誉教授)にすぎない。

 菅政権は、高齢化によって増加する医療費の抑制を重要課題とする。そのために病床削減とともに高齢者への負担増と受診抑制を強行するのだ。こともあろうに、コロナ危機の下で強行される医療破壊を許してはならない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS