2021年06月18日 1678号

【未来への責任(324) 明治産業革命遺産を問う(上)】

 5月22日に強制動員真相究明ネットワークが主催してオンラインで開催された「明治産業革命遺産の展示を問う!」シンポジウムは、強制労働の事実を否定する産業遺産情報センター(以下センター)を厳しく批判するものとなった。

 ユネスコ世界遺産委員会は「明治日本の産業革命遺産」の登録にあたり、「意思に反して連れて来られ厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと」を含めた「全体の歴史」を展示することを勧告した。

 しかしセンターには、強制労働された朝鮮人、中国人、連合軍捕虜の証言や記録は何ひとつ展示されていない。そればかりか、強制連行を「企業主が渡航希望の労務者を募集」したものとして、公募であったかのように歪曲して解説したパネルや賃金差別・不払いがなかったように印象操作するために、日本国内で徴用された強制連行と関係のない台湾人の給与明細書などを展示している。またセンターには、「誰が歴史を捏造しているのか?軍艦島は地獄島ではありません」と書かれた「真実の端島の歴史を追及する会」作成のパンフレットだけが置かれている。

 シンポで、韓国民族問題研究所の金丞垠さんは、強制動員被害者のうち24名から新たに聞き取った結果を報告した。親がいない人、農家の住み込み人、貧農層の若者、官憲に目をつけられた人、他人や家族の身代わりにされた人、訓練に行くとか楽な仕事だから食物には困らないなど甘言や欺罔によって動員された人。調査結果から、植民地支配が生み出した差別と貧困の中で若者たちが強制動員されていった当時の社会状況が浮かび上がった。

 長崎の中国人強制連行裁判に関わってきた新海智広さんは「坑内で裸の作業などできない」「警官が暴行をふるうわけがない、捏造だ」と断言するセンターの端島元島民の証言を李慶雲さんの裁判所での証言によって批判した。「坑内ではふんどし一丁で労働し、時には素っ裸のまま働き、まるで原始社会に帰ったかのようだった」「坑内でガス漏れが発生し日本人の監督が坑道を塞がせようとする中で救出した仲間を放置して死なせたため、就労を拒否したところ会社が警官を呼び寄せ縛り上げられ滅多打ちにされ連行された。一人の警官が私の頭部めがけて切りつけ、とっさに頭を下げて避けようとしたが首の後ろを切られて意識を失った。そのときの傷跡が今も残っているだけでなく首を動かすのも不自由だ」。この証言は裁判所で事実認定されているのである。端島における朝鮮人と中国人強制連行の歴史の事実をなかったことにはできないのである。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)

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