2021年06月18日 1678号

【民意は完全にオリンピック中止/ついに「朝日」も中止社説/五輪翼賛支えた罪は重い】

 菅首相の無責任発言や国際オリンピック委員会の傲慢発言にうんざりし、「オリンピックが嫌いになった」という人は多いだろう。カネの亡者と権力亡者のための巨大イベントであることが露呈したわけだが、その実態を隠蔽してきたマスメディアの罪は重い。

矛盾した対応

 東京五輪・パラリンピックの公式スポンサー(オフィシャルパートナー)である朝日新聞が「夏の東京五輪/中止の決断を首相に求める」と題した社説を掲げた(5/25付朝刊)。ただし、同社のウェブサイトにおいて、五輪スポンサーは続けると明言した。

 中止を求める理由はもちろん、新型コロナウイルスの感染拡大である。いわく「何より大切なのは、市民の生命であり、日々のくらしを支え、成り立たせる基盤を維持することだ。五輪によってそれが脅かされるような事態を招いてはならない」。この主張に異論はない。「五輪は政権を維持し、選挙に臨むための道具になりつつある」という批判も妥当である。

 問題は、こうした至極当然の社説を出すのが遅すぎたということである。内幕を報じた週刊文春(6月10日号)の記事によると、今でも社内では「取材現場での影響をどう考えているのか」といった不満が渦巻いているという。

 いま中止の社説を書かねば読者に愛想をつかされる。さりとて、ここでスポンサーを降りたら巨額の協賛金を回収できなくなる。そのジレンマが、紙面では中止の論陣、会社としてはスポンサー継続という対応に行き着いたのだろう。

利益共同体に

 五輪のスポンサー企業には、大会の呼称やマーク類、映像の使用権や、大会会場でのプロモーション活動などが認められている。4つのカテゴリーがあり、ランクに応じて権利の利用などで差がつく仕組みだ。

 オフィシャルパートナーは上から3番目のランクだ。協賛金は約60億円。東京大会では4つの全国紙(朝日、毎日、読売、日経)が、この契約をJOC(日本オリンピック委員会)と交わしている。産経新聞と北海道新聞は1ランク落ちるオフィシャルサポーターだ(協賛金約15億円)。

 これまでの五輪・パラリンピック大会では「一業種一社」というスポンサー枠の制限があったが、これが東京大会では取り払われた。売り上げ拡大を狙った電通がIOC(国際オリンピック委員会)を説得した結果である。

 大会のスポンサーになるということは、主催者と利益共同体になることを意味している。オリンピックで儲ける立場になるので、批判的な視点からの検証報道を自粛する作用が働くということだ。

 実際、コロナ禍以前にも東京五輪は様々な問題(招致をめぐる贈収賄疑惑、高騰する大会経費、巨額の財政負担、原発事故の幕引き、酷暑への不安等々)を抱えていたが、大手紙は追及を避けてきた。まさに五輪翼賛体制の中心的役割を果たしてきたのである。

NHKのねつ造

 テレビはどうか。NHKと民間放送連盟は2018年〜2024年大会の放送権を獲得している。放送権料は総額1100億円にのぼる。次の4大会分の契約もIOCと合意した(放送権料は975億円)。

 これだけのカネを払っているのだから、テレビ局にとって「オリンピックの盛り上げ」は至上命令である。開催を疑問視する世論の高まりは「あってはならないこと」なのだ。だから平気でねじ曲げる。

 NHKが特にひどい。4月1日、長野市内で行われた聖火リレーをインターネット生中継したときのことだ。沿道で「五輪反対」と抗議する人びとの声が放送されないように、約30秒間に渡って中継の音声を消したのである。

 世論のねつ造にも手を染めた。1月の世論調査では「開催すべき」16%に対し、「中止すべき」38%、「延期すべき」39%であった。「開催」は「中止・延期」に大差で負けていた。ところが2月の調査では「開催」の合計が55%で、「中止」の38%を逆転した。

 そのからくりは質問の変更にあった。「延期」を選択肢から外し、「開催」の選択肢を3つ(「これまでと同様に行う」「観客数を制限して行う」「無観客で行う)に増やしたのだ。

 それでも5月の調査では「中止」49%が「開催」の合計44%を再逆転した。中止を求める民意を隠すことは、あくどい反則を使っても、もはや不可能ということだ。これを無視することは報道機関の死を意味している。

  (M)

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