2021年06月18日 1678号

【読書室 原発事故がもたらした福島甲状腺がん―その科学的根拠―/福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会 耕文社 550円(税込)/国連科学委員会報告の誤りをただす】

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEARは2021年3月9日、「東京電力福島事故後10年:放射線関連のがん発生率上昇はみられないと予測される」との報告書を出した。同報告書は、大幅な甲状腺線量評価の下方修正(10分の1程度)を行い、「がん統計と比較して数十倍の多発」と福島県甲状腺検討委員会が認める甲状腺がん多発について被ばくとの関係を否定している。

 報告書が取り上げた福島県甲状腺検査(2巡目)=本格検査についての研究論文は4論文。うち3論文は被ばく線量と甲状腺がん発生率の間に統計的に有意な相関関係を認めている。「相関なし」とする1論文が福島県立医科大学大平教授らによる「福島第一原子力発電所事故後の外部被ばく線量、肥満および小児甲状腺がんリスク:福島県民健康調査」である。

 本書は、この大平論文の中で公表されているデータを使って科学的に検証した結果、その結論がすべて誤りであることを明らかにし、大平教授らにあてた公開質問状の内容を詳細に解説している。被ばくとの関連を否定する唯一の「根拠」である大平論文が誤りである以上、甲状腺がん多発と被ばくの関係は、もはや否定することはできない。

 本書は、原発事故に起因する放射線被ばくによる健康被害はないとする原発推進勢力の主張に対して、科学的な検証を踏まえて反論し、被ばくと甲状腺がん発生に明らかな相関があることを明確にしたものだ。ぜひ一読を勧めたい。書店でも購入できるが、「明らかにする会」のウェブサイトからも購入できる。  (O)
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