2021年06月25日 1679号

【改憲先取り「土地規制法」強行/「総理大臣権限」強める菅】

 菅義偉は初めて首相として臨んだ国会で、安倍前政権にもまして悪法を次々と成立させた。その上、新型コロナ緊急事態措置をとったまま閉会するというのは、措置の解除や新たな事態に対する政府方針を国会で審議させないということを意味する。内閣独裁といえる。

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 会期末まで紛糾した「重要土地調査規制法」は法の組み立て自体が内閣総理大臣に広範な権限を与える危険なものになっている。

 たとえば法の適用対象となる「重要施設」について、自衛隊、米軍の基地である「防衛関連施設」、海上保安庁の施設の他、「生活関連施設」として政令で定めるものをあげる。この政令の制定・改廃には土地等利用状況審議会(10人以内で総理大臣が任命)の意見を聞くことになっているが、どの施設を対象とするのかは実質、内閣が決める。

 さらにどんな行為をどう取り締まるのかを定める基本方針の決定、注視区域の指定、調査の権限はすべて内閣総理大臣に与えられている。市民の権利侵害に直結する第9条。「機能阻害のおそれがある」と判断するのも、勧告を出すのも、土地等利用状況審議会の意見を聞くとはいえ総理大臣だ。勧告に従わない者にはすぐさま命令が出せる。

 第21条、他法令に「機能阻害行為」を規制できる規定がある場合、その法令の所管大臣に速やかに措置の実施を求め、実施状況の報告を求めることができる。この条項は明らかに沖縄の基地反対闘争に照準を合わせている。反対運動の拠点、辺野古ゲート前のテント村は国道事務所が道路法違反の警告看板を立てている。総理大臣は所管する国土交通大臣に速やかに撤去させよと強力に指示することができる。つまり、総理大臣が「機能阻害行為」と認めれば、関係大臣を総動員して排除に当たらせることができるのだ。

 このように、この法案は総理大臣に強大な権限を与える意味で「憲法改悪の『緊急事態条項』を先取りする」ものであり、「市民の監視と権利制限を日常化、常態化させる法律」(4月30日、同法案に反対する市民団体緊急声明)だ。事実、コロナ危機を口実に緊急事態条項に言及し、改憲手続法の改定を強行。改憲への地ならしを進めている。

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 警察官僚で固めた菅政権。今国会で成立した法案には、市民を統制・監視するものが目立つ。新型インフルエンザ等特措法には命令違反に罰則が創設された。デジタル関連法では、個人情報を総理大臣の元に一元支配できるデジタル庁の創設や地方自治体の「独自の保護措置」を制約する仕組みを導入した。

 コロナにはまったく無策でありながら、公立病院の統廃合を進め病床を削減する医療法の改悪や後期高齢者の窓口負担を倍にする健康保険法の改悪を「医療制度改革」と称し、社会保障費の削減をはかった。

 政治理念無き菅義偉が「ポスト菅不在」の中で延命を図るには、より幅広く党派閥に媚びを売る以外にない。自民党議員や高級官僚のモラル低下、業界・政商との癒着など、菅政権には自民党の最悪の部分が凝縮している。
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